ふるまいよしこ「マスコミでは読めない中国事情」写真はイメージです Photo:PIXTA

「出演辞退した俳優の代役で映画に出ないか?」1月2日、撮影のため飛行機でタイに向かった俳優が失踪した。心配したガールフレンドと弟が探しに行ったが、失踪から約一週間後に再会した彼は……。恐ろしいことに、最近の中国ではこうしたことが頻繁に起きており、1900人以上の人たちが姿を消しているのだ。(フリーランスライター ふるまいよしこ)

 年が明けたばかりの1月初め、中国のSNS界隈は大変な騒ぎになった。1月3日に映画撮影のためにタイ・バンコク入りした中国人俳優の王星さん(芸名は星星)が、上海にいる家族やガールフレンドの嘉嘉さんと取り続けていた連絡がその日の夜、ぷっつり途絶えてしまったというのである。

 バンコクの空港から撮影チームが手配した車で移動中だった王さんの最後の連絡は、隣国ミャンマーとの国境の街メーソートから発されたことも、嘉嘉さんたちを不安にさせた。

 というのも、中国人社会では、ここ数年来、タイやカンボジア、ミャンマーを巡る悪い噂が耐えないからだ。

「良い仕事があると言われて行ったら、薬をかがされ内臓を摘出された」という猟奇的な話から、現地におびき寄せた中国人あるいは観光客を誘拐して拘禁し、オンライン詐欺に加担させているという話もある。また、中国にいる家族のもとに高額な身代金を要求してくるケースも実際に報告されている。

ミャンマーやタイとの国境近く、中国人が詐欺のターゲットになっているエリア

 2023年末にはそんな詐欺集団の本拠地の一つだった、中国雲南省との国境に近いミャンマー北部のコーカン地区で、同地域の管轄権を巡る内戦が起こった。同地はその昔、アヘン栽培で知られた地域だったが、その後業態をギャンブルや娯楽産業へと転換。そしてその新業態には、豊かになった中国人を狙った電話及びオンライン詐欺も含まれていた。

 ミャンマー北部のコーカンはもとより「中国の領土だった」とも言われ、中国人との交易や行き来が盛んな地域だった。実際に同地を牛耳っていた5大家族はすべて中華系及びその末裔で、現地では中国語が普通に通じ、電力もネット回線も、またスマホ回線もすべて中国国内のそれが使われていたという。

 そのため、「コーカンで一山当てることができる」という誘い文句に乗せられ、誘拐されたり、あるいは自らミャンマーに密入国したりする中国人があとを絶たなかった。そんな彼らが詐欺グループに拘束されて強制的にオンライン詐欺に従事させられ、同地ではその詐欺産業を中心とした巨大な産業生態ができ上がっていた。