中国メディアによると、この顔十六はかつて中国の映画界で働いていた人物で、エキストラ俳優や撮影助手などを務めたことがあり、撮影現場の環境に詳しいという。

 しかし、失踪者は芸能関係者だけにとどまらない。

 今回の王さん救出騒ぎをきっかけに、ネットにはそれにあやかって「星星帰宅計画」と名付けられた名簿も出現。そこに書き込まれた、東南アジア、特にミャンマーで消息を絶ったとされる被害者の数は本稿執筆時でなんと1900人を超えている。また実際に、国連の人権高等弁務官事務所も2023年に、ミャンマー北部を含む同国内で詐欺に従事している/させられている中国人の数は12万人に上るとするデータを発表しており、この名簿に上がっているのは氷山の一角でしかないことがわかる。

「星星帰宅計画」名簿に書き込まれた被害者の数は1900人を超えている「星星帰宅計画」名簿に書き込まれた被害者の数は1900人を超えている 拡大画像表示

王さんと一緒にいた50人の中国人はなぜ救出されなかったのか?

 王さんは無事に解放された。だが、今に至るも事件がどうしてスピード解決したのか詳細は明らかにされていない。そして、彼と一緒にいた50人もの中国人が救出されなかったのか。さらに家族の訴えにもかかわらず、これほど多くの人たちが失踪したままなのはどうしてなのかについても、中国当局もタイ当局も、もちろんミャンマー当局も何も語らないままだ。

 ただ、タイ当局が失踪者を見つけ出す「手段」を有していることは間違いない。王星さん保護時に彼がミャンマー入国口で拘束されていたなどと発表されたのも、当局が詐欺団地の中にまで乗り込むことができたことを隠蔽する意図があったのではないか。

 事件を受けて、中国の民間では1月末から始まる春節休暇におけるタイ旅行ボイコットの呼びかけも盛り上がっている。実際にキャンセルする人も出ているが、自己意志によるキャンセルのために返金が叶わなかったり、難しかったりという問題も起きている。その一方で、「タイにはもう何度も行った。普通に楽しむ分には危険はない」と意に介していない人もおり、旅行料金にそれほど大きな変動は起きていないと報道するメディアもある。

 中国当局はここに来てようやく、東南アジアで失踪した中国人の救出活動に積極的に取り組む意志を明らかにした。だが、どうやってそれを行うのか、王さん救出作戦の経験から学べることはあったのか、詳しいことはなに一つ語られないままだ。