ディープシーク現象、製薬業界も直面Photo:CFOTO/gettyimages

 バイオ医薬品業界にディープシークと同様の衝撃が訪れたのは昨年の秋だった。

 富豪ボブ・ダガン氏が出資するバイオ医薬品のサミット・セラピューティクスは、肺がんの直接比較試験で、同社の製品が米製薬大手メルクの画期的な抗がん剤「キイトルーダ」を上回る効果を示したと発表した。免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれる種類のキイトルーダは、年間300億ドル(約4兆6000億円)の売上高があり、製薬業界のベストセラーとして長く市場を支配してきた。それを超える可能性がある競合医薬品の登場に、衝撃が走った。さらに特筆すべきは、サミットがその2年前、ほぼ無名の中国同業、康方生物科技(開曼)有限公司(アケソ)からこの薬剤のライセンスを取得していたことだ。

 この発表を受け、サミットの時価総額は何十億ドルも膨れ上がり、承認薬を一つも持たない会社が一躍、バイオ医薬品業界でトップ集団の仲間入りを果たした。同社の薬剤は依然として米規制当局の承認を得ていないが、これは業界の転機を意味する瞬間となり、中国から競争力のある脅威を受けていることを浮き彫りにした。

 バイオ医薬品における中国の台頭は長年かけて進んできたが、今や無視できない存在となっている。ディールフォーマによると、2020年には5000万ドル以上の前払い金がある大型ライセンス契約のうち中国が関与したものは5%足らずだった。2024年にはそれが約30%に急拡大した。10年後には、米市場で発売される多くの医薬品が中国の研究室で開発されたものになるだろう。