収入は減っても「満足げな表情」
会社員から転身した人に共通するその理由は?

 20年前の50歳から、中高年以降に会社員から他の仕事に転身した人達に長期間のインタビューに取り組んできました。社会保険労務士として独立、職人に弟子入り、釣具店を開業、中には、美容師やプロの落語家になった人もいました。一番驚いたのは、彼らは収入は減少しているのに、満足げな表情をしていることでした。

「これは一体どうしてなのか?」と何度も何度も話を聞きながら自分に問いかけてきました。気がついたのは、彼らが皆「新しい自分」を発見しているということでした。従来の延長線上ではなく、リストラや突然の出向、自分の病気など、会社員生活からみれば「挫折や不遇の体験」といえる事柄を通して「新しい自分」を発見している人が多かったのです。

 それまでは自分の本来の好みや向いているものを押し殺して組織に適応してきたが、挫折的なことを伴って、主体的に生きることを決意したことから「いい顔」があらわれていたのです。しかもその新しい自分は、かけ離れたところではなく自分自身の悩みや苦悩から立ち上がってつかんだもの。それが、「いい顔」に結び付いている。

 話を聞いていると「これさえなかったら」という「これ」のなかに新しい自分発見のヒントが隠れていることが少なくありませんでした。

 一方で、会社内の仕事が何よりも優先すると考えている人の中には、険しい顔つきの人が多いのです。彼らは、社内のシステムに過剰に反応し、それを内面に取り入れて適応している。しかしそのシステムの本質は、合理性・効率性の部分が大きいので、本来の自分は何をやりたいのか、どう生きたいのかという、新たな自分を見つける回答はは与えられません。

 若いときには、まず自己を確立する必要がありますが、中年期にはもうひとひねりが求められています。言い換えれば、立ち位置を変えなければならないのです。言葉では簡単なように思えますが、日常の中で行うのは難しいでしょう。しかし、立ち位置を変えれば「自らの存在」を違ったふうに見ることができ、ひいては「いい顔」になる第一歩につながるのだというのが、私の実感です。

 今後は、この「いい顔」について、具体事例も示しながら多面的な観点から検討していきたいと思います。

(構成/フリーライター 友清 哲)