「生き方や感情は顔つきに現れる」という楠木新さん。著述家として多くの人を取材し、さまざまな「顔」に接してきた経験から、いつしか「顔の研究」がライフワークになったと言います。『豊かな人生を送る「いい顔」の作り方』第1回は、楠木さんが企業で採用責任者を務めていた時代にさかのぼって「採用面接」における顔の役割を考察します。(著述家、元神戸松蔭女子学院大学教授 楠木 新)
顔には「生活の履歴」が表れる
大手生命保険会社で採用責任者を務めながら、並行して数多くの会社員を取材してきた立場から、私は人一倍、たくさんの「顔」に接してきました。その経験を踏まえてあらためて実感するのは、顔にはその人自身とそれまでの生活の履歴がよく表れている、ということです。
ただし「顔」は単純な造作を意味する言葉ではなくて、ここでいう顔とは「表情」です。前者が静止的なものであるのに対し、後者は時間の経過による変化がポイントです。そして、企業の採用担当者が見ているのは後者なのです。
顔は、人体の中で常に裸のままさらされているパーツで、その人物の人となりがあからさまに表現される部位です。感情も含めた脳の状態を表出しているものだといえそうです。メークなどで彩ることは可能でも、顔の動きはその人のパーソナリティーからしか生まれません。採用担当者は、相手の顔のパーツではなく表情を中心とした雰囲気を読み取ろうとしています。
少し前まで、大学の教員として多くの学生から多様な相談を受けていました。就活シーズンになると「面接者は自分の話を真剣に聞いていないように感じる」という疑問を持ち込まれることがあります。これはまさしく、面接者が学生の言葉そのものよりも、表情やそれに伴う雰囲気を重視していることの表れなのです。