AI時代の福祉革命
ベーシック・インカムの未来
GDPが指数関数的に成長しつづけているため、社会的セーフティネット支出は総額でも、1人あたりの金額でも増えていくだろう。アメリカの社会的セーフティネットで重要な制度は、基本的な医療サービスを提供するメディケイド、食料支援のSNAPフードスタンプ(実質的な食料品用デビットカード)、居住支援がある。
これらの制度の水準は、今はかろうじて合格点といったところだが、2030年代にはAIが主導する進歩によって医療費、食費、住居費が大幅に安くなるため、社会的セーフティネットにあてるGDPの割合をこれ以上増やさなくても、同じレベルの財政支援でかなり快適な生活水準を提供できるようになる。今後もこの割合が増加しつづけるなら、より広範囲なサービスを提供することができるだろう。
2018年にバンクーバーで開催されたTEDカンファレンスにおける、TEDキュレーターのクリス・アンダーソンとの対談で、私は次のような予測を述べた。
先進国では2030年代初頭までに、他のほとんどの国では2030年代後半までに、ユニバーサル・ベーシック・インカムかそれに相当するものが実現し、その収入で今日の水準から見て充分と言える生活を送れるようになるだろう、と。これにはすべての成人に対する定期的な金銭給付、またはモノやサービスの無料提供が含まれ、その財源は自動化によってもたらされる利益に対する税金や、政府による新興テクノロジーへの投資から発生する収益などの組みあわせでまかなわれると思われる。
関連する制度として、家族の介護や健康なコミュニティの構築を支援するための財政支援プログラムがつくられるかもしれない。こうした改革によって、雇用破壊の影響を大幅に緩和できるだろう。進歩の可能性を評価する際には、それまでに経済がどれほど大きく進化しているかを考慮しなければならない。
加速するテクノロジーの変化のおかげで、全体的な富ははるかに大きくなる。また、社会的セーフティネットはどちらの党が政権を取っても関係なく長期的に安定しているため、制度は維持されて、今日よりもかなり高い水準になる可能性が非常に高い。
ただし、テクノロジーのもたらす豊かさは、すべての人々に同時に等しく利益をもたらすわけではないことを忘れてはならない。たとえば、2022年に1ドルで手に入れられる計算能力は、2000年の5万倍以上になる(インフレ調整後)。