「あなた2号」は意識をもつのか?→「AI研究の世界的権威」の答えが正論過ぎて、ぐうの音も出ない写真はイメージです Photo:PIXTA

デジタル技術であなたの脳を完全コピーした「あなた2号」は、そう遠くない未来に実現するだろう。しかし、そこには倫理や哲学的課題が浮かび上がる。デジタル脳の誕生やAIが問う倫理を解説していこう。※本稿は、レイ・カーツワイル著、高橋則明訳『シンギュラリティはより近く 人類がAIと融合するとき』(NHK出版)の一部を抜粋・編集したものです。

デジタル脳の誕生が問う倫理
「あなた2号」は意識をもつのか

 刺激的なひとつの問いが出てくる。もしも意識とアイデンティティが、頭蓋骨の中にある多くの明確な情報処理構造に広がっている(たとえ物理的に接続されていない構造でも)のならば、それらの構造が頭蓋骨の中と外に離れているときには、どうなるのだろうか?

 私が『いかにして心を創造するか』で探究した重要な問題は、人間の脳にあるすべての情報をコピーしたときの哲学的、倫理的意味である。脳のコピーは、今生きている人々の大半が存命中に起こりうることだ。

 では、先進テクノロジーを利用して、あなたの脳のある部分を調べて、その小さな部分の正確なデジタルコピーをつくるとしよう(現在の私たちは、体が不随意に震える本態性振戦やパーキンソン病を治療するときに、患者の脳の一部についてきわめて原始的なこのバージョンを実行することができる)。脳のわずかな部分のコピーでは単純すぎて、意識をもつことはできない。

 ではそれに追加して、あなたの脳の別の部分をコピーしてみる。さらに別の部分のコピーと続けていく。このプロセスの最後には、あなたの脳全部をコンピュータで表した完全な複製ができる。それはあなたの脳とまったく同じ情報をもち、同じように機能する。

 ではこの「あなた2号」は意識をもつのだろうか?

 あなた2号はあなたとまったく同じ経験をもっているし(あなたの記憶を共有しているから)、あなたと同じようにふるまう。意識をもった存在の電子的なバージョンを完全に禁止しないかぎり、答えはイエスになる。

 簡単に言うと、電子の脳が生物脳と同じ情報を示して、自分には意識があると主張するならば、それを否定できる説得力のある科学的根拠はないのだ。それならば倫理的には、あなた2号を意識があるように扱い、道徳的権利を与えるべきである。これは根拠のない推論ではない。汎原心論が、あなた2号は実際に意識をもつと信じるに足りる哲学的理由を提供しているのだ。