プレゼン資料は、「読ませるもの」ではありません。“込み入った話”を言葉だけで伝えようとすると、どうしてもまどろっこしい表現になり、非常にわかりにくい説明になりがちです。そんな時に必要なのは、伝えるべき内容の「本質」を、直観的に理解できるように「図解化」する技術。プレゼン資料は「見せるもの」なのです。そこで、累計40万部を突破した『社内プレゼンの資料作成術』シリーズの著者で、ソフトバンク在籍時には孫正義社長に直接プレゼンをして「一発OK」を次々と勝ち取った実績を持つ前田鎌利さんと堀口友恵さんに、プレゼン資料を「図解化」する技術を伝授していただきます(本連載は『プレゼン資料の図解化大全』から抜粋・編集してお届けします)。
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「サテライト型」と「ベン図」
ビジネスプレゼンでよく使われる図解パターンに「サテライト型」があります。「フローチャート」のように時系列的な“流れ”を表現するのではなく、何らかの関連性のある要素を図示するときに使用します。
典型的なのが、【図9-1】のように、ある商品の「特長」を表示する図解スライドです。ご覧のように、「簡単」「安価」「安心」という「特長」を示す言葉を、「ボックス」で囲ってもいいし、「円」で囲っても構いません。それは、ケースバイケースで最適な形状を使えばよいと思います。
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なお、「円形」を使えば、「ベン図」としても活用できます。「ベン図」とは、【図9-2】の①のように、図形を重ね合わせることで、複数のことがらの関係性を視覚的に表現するものです。
例えば、【図9-2】の②のようなベン図を見せれば、「簡単、安価、安心」という3つの要素を全て兼ね備えた「当社の新商品」は、既存のA~C商品よりも優れていることを表現することができるでしょう。
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伝える内容はなるべく「3つ」に絞る
「サテライト型」や「ベン図」をつくるときに注意していただきたいのは、スライドに盛り込む要素をなるべく絞り込むことです。
私たちがおすすめするのは、ズバリ3つに絞り込むことです。【図9-3】をご覧いただければ一目瞭然ですが、要素が5つに増えるだけで、一気に頭に入ってこなくなるからです。
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もちろん、内容的にどうしても3つでは収まらない場合には、数を増やすしかありませんが、なるべく3つに絞り込むように工夫することを強くおすすめします。
なぜか?
伝える内容を3つにしたほうが、わかりやすいし、記憶にも残りやすいからです。人間は、与えられたテーマが3つを超えると、とたんに理解のスピードと正確性が落ちることが科学的にも実証されているのです。これを「マジックナンバー3の法則」と言います。
実際、「三種の神器」「朝起きは三文の徳」「三人寄れば文殊の知恵」「三度目の正直」など、「3」という数字を使った言葉はやまのようにあります。
あるいは、古今東西の名言も「3」と関係するものがたくさんあります。例えば、リンカーン大統領の「人民の人民による人民のための政治」も、“Government of the people, by the people, for the people.”と下線部の3つのキーワードが強いインパクトを生んでいます。
このように、「3」という数字には人間に訴えかける不思議な力があります。だからこそ、「3」という数字はマジックナンバーと呼ばれているのでしょう。この「マジックナンバー3」を、プレゼン資料に活かさない手はありません。
「3つのポイント」を連打して記憶に刻む
さて、「サテライト型」や「ベン図」で詳細情報を伝えるときには、どうすればいいのでしょうか?
社内プレゼンでは、スライド作成に手間をかけないほうがよいので、【図9-4】のように、「簡単」という言葉の説明を付記しておいて、詳細は口頭で説明する程度にとどめておくのがよいでしょう。
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ただし、【図9-4】のような簡単な説明では足りない場合もあり得ます。その場合には、【図9-5】のように「簡単」「安価」「安心」について、1枚ずつスライドを作成して見せていくのがよいでしょう。
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1枚目のスライドを示しながら、「本商品の特長は、『簡単』『安価』『安心』の3つです。まず、『簡単』からご説明します」と口頭で伝えたうえで、2枚目のスライドを表示。
2枚目のスライドの説明が終わったら、3枚目で再び「3つのポイント」を示します。そして、「次に、『安価』についてご説明します」と言いながら、4枚目に移るわけです。
このようにすることで、ひとつずつ丁寧に説明するとともに、「3つのポイント」を何度も見せることによって、聞き手の記憶に刻み込むことも期待できるというわけです。
(本稿は、『プレゼン資料の図解化大全』より一部を抜粋・編集したものです)
1973年生まれ。ソフトバンクモバイルなどで17年にわたり移動体通信事業に従事。ソフトバンクアカデミア第一期生に選考され、プレゼンテーションにおいて第一位を獲得する。孫正義社長に直接プレゼンして幾多の事業提案を承認されたほか、孫社長のプレゼン資料づくりも数多く担当。2013年12月にソフトバンクを退社、株式会社固を設立して、プレゼンテーションクリエイターとして独立。2000社を超える企業で、プレゼンテーション研修やコンサルティングを実施。ビジネス・プレゼンの第一人者として活躍中。著書に『【完全版】社内プレゼンの資料作成術』『プレゼン資料のデザイン図鑑』『パワーポイント最速仕事術』(すべてダイヤモンド社)など。
堀口友恵(ほりぐち・ともえ)
埼玉県秩父市生まれ。立命館大学産業社会学部卒業後、ソフトバンクへ入社。技術企画、営業推進、新規事業展開などを担当する中で、プレゼンの経験と実績を積む。2017年に株式会社固へ転職し、スライドデザイナーとしての活動を始める。企業向け研修・ワークショップの担当や大学非常勤講師のほか、大手企業などのプレゼンのスライドデザインを担当し、のべ400件以上の資料作成やブラッシュアップを手がける。前田鎌利著の『プレゼン資料のデザイン図鑑』『パワーポイント最速仕事術』のコンテンツやスライドの制作にも深く関わった。ITエンジニア本大賞2020プレゼン大会にて、ビジネス書部門大賞・審査員特別賞を受賞。小学生向けのオンライン講座「こどもプレゼン教室」を運営し、子どもたちのプレゼンスキルアップの支援も行っている。