「社内プレゼン」は、ビジネスパーソンにとって必須のスキルです。どんなによいアイデアがあっても、組織的な「GOサイン」を得なければ一歩も前に進めることができません。そのためには、説得力のあるプレゼンによって決裁者を説得する技術が不可欠なのです。
そこで役立つのが、ソフトバンク在籍時に孫正義氏から「一発OK」を何度も勝ち取り、独立後、1000社を超える企業で採用された前田鎌利氏の著書『完全版 社内プレゼンの資料作成術』(ダイヤモンド社)です。
本書では、孫正義氏をはじめ超一流の経営者を相手に培ってきた「プレゼン資料」の作成ノウハウを、スライド実例を豊富に掲載しながら手取り足取り教えてくれます。読者からは「大事なプレゼンでOKを勝ち取ることができた」「プレゼンに対する苦手意識を克服できた」「効果的なプレゼン資料を短時間で作れるようになった」といった声が多数寄せられています。
本稿では、本書より一部を抜粋・編集して、決裁者を4タイプに分けて、それぞれの特性に合わせてプレゼン資料を最適化するコツについて解説します。
ハーマンモデルで「決裁者」を見極める
社内プレゼン資料を作成するうえで大切なのは、「決裁者がどんな人物か?」を確認することです。
数字に強くて論理的な人物なのか?
新しいものが好きで感覚的に物事をとらえる傾向がある人物なのか?
それによって、資料の「見せ方」が異なってくるからです。
たとえば、数字に強い決裁者であれば、アペンディックスに入れた詳細グラフを本編スライドで見せる。
感性を重視する決裁者であれば、よりインパクトのあるキーメッセージを再考する。
このように、決裁者に合わせて、プレゼン資料にマイナー・チェンジを加えるわけです。
ここで参考になるのが、ハーマンモデルです。
ハーマンモデルとは、大脳生理学の研究成果をもとにGEの能力開発センター所長であったネッド・ハーマンが開発した「人間の思考行動特性のモデル」のこと。人間には「利き腕」や「利き目」があるように「利き脳」があり、下図のように「論理型」「堅実型」「独創型」「感覚型」の4つの思考行動特性に大きく分類できるという考え方です。
私は、決裁者のタイプをハーマンモデルにあてはめることで、その特性を明確にするようにしてきました。
もちろん、人間は単純ではありませんから、「この人はこのタイプ」と綺麗に分類できるわけではありません。堅実かつ論理的な人もいれば、独創的だけど論理的な人もいます。「この人は、このタイプの傾向が強い」などと、あくまで目安として活用します。決裁者の特性を漠然と考えるよりも、ハーマンモデルを参考にすることで、スライドをどのようにアレンジすべきかをクリアにすることができるのです。
決裁者4タイプの「傾向」と「対策」
ハーマンモデルのどのタイプにあてはまるか?
正しく判断するためには、あなたが決裁者をよく観察することがいちばん重要です。ハーマンモデルのなかで、「どのタイプの傾向が強いか?」というフレームで観察すれば、だんだんとその人物の特性が見えてくるはずです。
あるいは、決裁者を古くから知っている上司や先輩の話を参考にするのもいいでしょう。さらに、私がよく参考にしたのが、決裁者のキャリアです。人間の思考行動特性は、その人が経験してきた仕事や部署、現在所属している部署によって特徴づけられる傾向があるからです。もちろん、必ず当てはまるわけではありませんが、ひとつの目安として有効です。
そこで、以下に、4つのタイプごとに、「決裁者の特性」「その傾向の強い部署」「スライドのチェックポイント」をご紹介します。ぜひ、参考にしながらスライドをブラッシュアップしてください。
(1)「論理型」の決裁者
経営企画、管理会計、マーケティング、技術、システムなどの部門でキャリアを積んできた決裁者に多いのが「論理型」。
彼らは、「ツメに甘さはあるが、面白そうな提案だ」などとGOサインを出すことはありません。ロジックを完璧に納得できなければ認めてくれません。だから、プレゼンのロジックが首尾一貫しているか、説得力があるかを再度、入念にチェックするようにしてください。
アペンディックスに「抜け漏れ」がないことも重要です。社内プレゼン資料は「5~9枚」の本編スライドで、骨太なロジックを伝えることに徹するのが効果的ですが、論理型の決裁者は、ロジックの“隙間”を埋めるために、あらゆる角度からツッコミを入れてきます。これに、適切に応えられなければ却下されてしまいます。
場合によっては、アペンディックスに入れた詳細グラフを本編に戻したほうがいいこともあります。複雑なグラフですから少々見にくいですが、論理型は数字に強いので苦もなく読み解いてくれることもあります。そのような決裁者であれば、はじめから詳細グラフを見せたほうが無難かもしれません。
また、彼らは、データなどの客観的な事実を重視しますから、数字の間違いは絶対にアウト。それだけで、突き返されるでしょう。だから、数字のチェックは念にも念を入れて行うようにしてください。
(2)「堅実型」の決裁者
「堅実型」は、カスタマーサービスやコールセンターなどの顧客対応部門、技術・システム部門の経験者に多いタイプです。
彼らは、計画性や実現可能性、プロセスを重視する傾向があります。そのため、提案自体はロジカルで説得力があっても、現場のオペレーションやスケジュールに現実性があることに納得できなければ、なかなかGOサインを出しません。
そこで、現場で実施したシミュレーション結果を本編スライドに入れることで、実現可能性は検証済であることをアピールすることも考えたほうがいいでしょう。あるいは、他部署の事業との兼ね合いも考慮したうえで、実現性の高いスケジュールを組んでいることが一目でわかるように、スライドにアレンジを加えたほうがいいかもしれません(下図参照)。
特に、前例のない斬新な提案の場合、「堅実型」はきわめて慎重な判断をする傾向があります。そのため、実現可能性の高さをアピールするアペンディックスをしっかりと用意することをおすすめします。
また、「堅実型」はプロセスを重視しますから、プレゼンそのものも「今、何の話をしているのか?」をわかりやすくしておく方がいいでしょう。そのため、スライドとスライドの間に、「次のトピックはこれです」ということを明示する「ブリッジ・スライド」を丁寧に入れることをおすすめします。
(3)「独創型」の決裁者
「独創型」が多いのは、広告、デザイン、営業などのキャリアをもつ決裁者。
彼らは、イノベーティブな新しい提案を好む傾向があるので、それに該当する提案であれば「業界初」「社内初」など、「初」を強調すると効果的です。もちろん、「初」であることを示すアペンディックスを用意することを忘れないでください。
また、ロジックを軽視することはありませんが、それ以上にビジョンやストーリーを重視する傾向があります。そのため、データは必要最小限にとどめて、提案する事業に込めた「想い」、その提案を実施した結果として生み出される「価値」などを、ビジュアルを使って表現するスライドを用意すると効果的なケースもあります。
彼らには、物事の把握の仕方にも特徴があります。細部を積み重ねて全体を理解するのではなく、まず最初に「要するにどういうことか?」と全体を大づかみにしたいという欲求が強いのです。そのため、プレゼンのスライドも、その特性を意識してアレンジすることをおすすめします。
たとえば、冒頭でプレゼン全体の流れがつかめるサマリーやブリッジ・スライドを用意するといいでしょう。そして、全体感を決裁者と共有したうえで、詳細の説明に入るのです。
(4)「感覚型」の決裁者
営業経験者に多いのが「感覚型」です。
彼らは、人間関係や他部署との関係を重んじる傾向があります。そのため、提案内容の是非はもちろん重要ですが、それとともに、「きちんと関係部署の了解が得られているか」「根回しができているか」「反対者がいないか」を気にかけています。
この場合、スライドのアレンジを検討するよりも、「他部署とのコンセンサスがきちんと取れている」ことを口頭で強調すればいいでしょう。あるいは、「上層部から太鼓判を押されている」ことをさりげなく伝えるのも効果的です。そのためにも、企画の段階、プレゼン資料作成の段階など、折に触れて関係部署のキーマンや上層部とコミュニケーションをとっておくことが重要なのです。
ここまで、4つのハーマンモデルについてご説明してきました。
大企業の社内プレゼンは通常、課長、部長、役員、経営者と、ステップごとに異なる決裁者を相手にプレゼンします。課長は「感覚型」で、部長は「独創型」、役員は「論理型」とハーマンモデルも異なりますから、その都度、スライドにアレンジを加えていくようにしてください。
ちなみに、一般的に上層部になればなるほど「論理型」が増えますから、順次、アペンディックスを補強するとともに、本編のロジックを強化しておくことを心がけるといいでしょう。
なお、ここでご紹介した内容はあくまで目安です。参考にしていただきつつ、ご自分で試行錯誤しながら、決裁者の特性に合わせたスライド・アレンジの技術を磨いていただきたいと思います。
(本稿は、『完全版 社内プレゼンの資料作成術』より一部を抜粋・編集したものです)