これらの人々が、アメリカに永住するのかそれともいずれ中国に戻るのかは、分からない。ただ、研究環境の自由度も経済的な報酬も、アメリカで研究する場合のほうが恵まれている場合が多いだろう。
仮に彼らがアメリカに移住してしまうのであれば、中国は、せっかく教育した高い能力の人々をアメリカに奪われてしまうことになる。
(注3)「トップクラスの研究者」とは、AI関連で最高峰の国際学会「NeurIPS(ニューリプス)」で論文が採択された著者
中国は、少子化・生産人口減少を
AI技術で克服する!?
ただそうではあっても、中国国内に膨大な数の優れたAI研究者が存在し、増加していることは事実だ。
中国はいま、生産年齢人口の減少に直面している。経済成長率が低下している基本的な原因はここにある。
これは日本の95年頃の状況と似ている。日本はこの時点以降、長期の経済停滞に陥った。こうなった理由は人口要因だけでなく、日本が社会を変えるような先進的技術を持っていなかったことにある。日本の技術は、結局は欧米諸国で開発された技術の応用にすぎなかったのだ。
中国の成長率が低下しているのは事実だがAI分野などの高度な教育・研究活動の進展が、この問題を解決するかもしれない。
日本はどうする?少ない国立大学運営費交付金
教育内容は製造業の人材育成が中心
日本はこのままで良いのかどうかを、真剣に考えなければならない。AIが未来の世界を作る最も重要な原動力であることは間違いないからだ。
ところが日本は、全く立ち遅れた状況にある。すでに見たように、大学でも研究機関でも、世界のトップに日本は出てこない。マクロポロのレポートの出身国リストにも、日本という国名は出てこない。
この状況から脱却するには、まずは大学でのAI関連の研究・教育を飛躍的に強化する必要がある。
しかし、日本の国立大学への運営費交付金は総額が年間1兆円程度でしかない。しかも、これまで毎年度減らされてきた。そして、AI研究は大学の理工学部の中でさして大きな比重を占めているわけではない。工学部では、伝統的な製造業の人材の育成が依然として主たる教育内容になっている。
一方で日本政府は、効果があるかどうか不確かな半導体企業ラピダスに10兆円規模の公的支援を30年度までに行うことを決めている。
日本の国家資源の配分は、説明がつかないほど不合理な状態に陥っていると考えざるを得ない。
(一橋大学名誉教授 野口悠紀雄)