経験は最高の師だ。しかし学校が閉鎖されたら、教えを請うのは難しい。
米国株は3日の急落に続いて4日も下落した。ドナルド・トランプ米大統領がカナダやメキシコに高率関税を回避する「余地はない」と述べるとともに、中国には追加関税を課すと発言し、それから数時間後に関税は発動されたことが背景にある。S&P500種指数は年初来の上昇分を帳消しにし、マイナス圏に入っている。
株価急落は過剰反応なのだろうか。トランプ氏が1期目の2018~19年に貿易戦争を仕掛けた際は、強気相場がそのまま続いた。
だが、投資家の記憶は不正確かもしれない。当時は画期的な法人減税が実施されたばかりで、企業が設備投資した際の特別償却を認める規定も盛り込まれていた。その効果も大きく、2018年後半にはS&P500種指数構成企業の営業利益と設備投資が、景気後退からの回復期を除き、ほぼどの期間よりも急速に伸びていた。
この利益と投資の好循環は、今ほど広範囲ではなかった関税の打撃を和らげてくれた。とはいえ、2019年終盤には利益の伸びが失速し、経営上層部の楽観論も消えていた。同年12月、米供給管理協会(ISM)が発表する製造業景況指数は金融危機以来の低水準に落ち込んだ。
次にやってきたのは何か。景気後退と弱気相場だ。だがそれは貿易戦争のせいではなく、新型コロナウイルスという緊急事態が引き起こしたものだ。選挙イヤーの景気刺激策の投入で、米国株は何とかやってこれたのかもしれない。それは永遠に分からない。
ISMは3日、関税発動が確認されるわずか数時間前に2月の製造業景況指数を発表した。総合指数は業況拡大・縮小の分岐点である50を上回ったが、構成する各指数は悪化した。新規受注は数年ぶり高水準から一気に低下し、縮小圏内に入った。一方、支払価格と納入は急上昇した。これらを考え合わせると、関税に備えて在庫確保を急いでいることと、その反動で在庫ペースが衰える可能性が高いことがうかがえる。