企業が持続可能な経営を行う上で欠かせない
3つのP(Profit、Planet、People)

 1994年、イギリス人起業家のジョン・エルキントン(John Elkington)氏は、持続可能な経営には「経済的側面」だけではなく、「環境的側面」「社会的側面」が欠かせないとする「トリプルボトム・ライン(Triple bottom line)」を提唱した(※)。
※Harvard Business Review Home “25 Years Ago I Coined the Phrase “Triple Bottom Line.” Here’s Why It’s Time to Rethink It.” (最終閲覧2021/5/28)

 この考えはその後、「Profit(経済的利益)」「Planet(地球環境)」「People(人々の幸福度)」という「3つのP」として、企業が持続可能な経営を行う上で欠かせない理念とされ、採用が広まり、2015年に国連総会で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」を受け、いっそうその重要性が強調されている。

 産業革命以降、現代に至るまで進められてきた経済モデルは、地球上の資源を「取って(take)」「つくって(make)」「捨てる(dispose)」という一連の流れから、「リニアエコノミー」や「一方通行型(線状)モデル」と呼ばれている。

 リニアエコノミーは大量生産・大量消費・大量廃棄という構造を生み出してしまい、「3つのP」のうち、短期的な「Profit(経済的利益)」が偏重された持続性のない仕組みとして、現在では世界各国で改定に向けた議論が行われている。

「3つのPのバランス」を言い換えると、「3つのPは相互依存の関係にある」ということだろう。

 例えば、「経済」の頂点だけを引き伸ばそうとすると「地球環境」と「人間の幸福度」は狭まり、「人間の幸福度」だけを闇雲に引き伸ばすと「経済」と「地球環境」がしぼみ、同様に「地球環境」だけを重視しても社会が成り立たないほどに経済が抑制され、必ずしも「人間の幸福度」が追求できるわけでもない。

 このように「3つのP」は相互依存の関係にあり、だからこそ持続可能な仕組みづくりには、これらのバランスの取れた国の政策、企業の事業モデル、そして一人ひとりの生き方が求められている。

「リニアエコノミー」から「サーキュラーエコノミー」へ
従来のビジネスモデルの根本的な再構築が必須

 リニアエコノミーに代わる新しい経済の仕組みとして世界各国で採用が進められているのが、「サーキュラーエコノミー」である。

 サーキュラーエコノミーは新規事業立案や製品設計、デザインの段階から、リニアエコノミーの「捨てる(dispose)」フェーズをなくし、代わりに全ての資源を使用し続ける仕組みを構築する、循環型の経済モデルだ。

 現在各国では、リニアエコノミーからリユース・リサイクルエコノミーを経て、サーキュラーエコノミーへの移行が進められている。

図リニア、リユース・リサイクル、サーキュラーエコノミーの違い(Government of the Neitherlands “From a linear to a circular economy”をもとに筆者作成)

 従来のリニアエコノミーでは短期的な視点での経済利益が追求され、地球環境の持続可能性や人々の幸福度の評価が蔑ろにされがちであった。その後のリユース・リサイクルエコノミーでは、資源活用(リサイクル)が導入されたものの、設計・デザインの段階ではリニアエコノミー同様最終的に「捨てる」ことが前提だ。

 これに対して、サーキュラーエコノミーでは、事業立案や政策方針策定、商品デザイン考案の段階から資源廃棄の可能性をなくし、自社または社会の中で資源が循環し続ける仕組みが構築される。

 そのため、リニア/リサイクルエコノミーからサーキュラーエコノミーへの移行においては、従来のビジネスモデルの根本的な再構築が欠かせず、化石燃料から再生可能エネルギーへの転換やサプライチェーンの透明化も同時に進めることで、環境負荷の抑制だけでなく、利益創出やコスト削減、雇用増大、ビジネスリスク軽減に繋がる総合的利点が見出されている。

 サーキュラーエコノミーでは、短期と長期双方の視点から「3つのP」の総合的な充足度向上を目指しているのだ。

(第2回へ続く)