プレゼン資料は、「読ませるもの」ではありません。“込み入った話”を言葉だけで伝えようとすると、どうしてもまどろっこしい表現になり、非常にわかりにくい説明になりがちです。そんな時に必要なのは、伝えるべき内容の「本質」を、直観的に理解できるように「図解化」する技術。プレゼン資料は「見せるもの」なのです。そこで、累計40万部を突破した『社内プレゼンの資料作成術』シリーズの著者で、ソフトバンク在籍時には孫正義社長に直接プレゼンをして「一発OK」を次々と勝ち取った実績を持つ前田鎌利さんと堀口友恵さんに、プレゼン資料を「図解化」する技術を伝授していただきます(本連載は『プレゼン資料の図解化大全』から抜粋・編集してお届けします)。

ビジネス・プレゼンで頻出する「マトリックス型の図解」
「マトリックス型の図解」は、ビジネス・プレゼンで使用頻度の高い図解です。
ビジネスを進めていくためには、「自社商品の市場におけるポジショニング」や「自社や自社商品の比較優位性」を理解してもらうことが非常に重要ですが、これを文章で表現しようとすると煩雑な説明になるので、「マトリックス」を活用して図解化する場面が多いと考えられます。
例えば、下図のようなケースが典型です。

このスライドは、新規商品の開発を承認してもらうために、「その新商品が既存市場(A社商品、B社商品)のなかで、どのような特異性をもっていて、どのようなニーズを取り込むことができるのか?」を説明しようとしているものですが、このように「マトリックス型」で図解化すれば、「新商品のポジショニング」をほとんど一瞬で理解してもらうことができるでしょう。
「ポジショニング」と「比較優位性」で表現方法は異なる
ただし、単に「ポジショニング」を示すだけではなく、その新商品の「比較優位性」を強調したい場合には、もうひと工夫が必要となります。
ポイントは「右上」です。
「比較優位性」をアピールするためには、自社や自社商品のポジションを、他社や他社商品よりも「右上」に配置するのが効果的なのです。なぜなら、「右上」の位置は、見る人に「右肩上がり」「上位」をイメージさせるポジションであるため、見た瞬間に「優位性」を体感することができるからです(図11-1参照)。

「縦軸/横軸」の設定が重要である
具体的に考えてみましょう。
【図11-2】をご覧ください。これは、本稿の冒頭で示した「①ポジショニングを示すパターン」を、「②比較優位性を訴求するパターン」に組み替えたものです。

変更したのは縦軸です。
縦軸を「上:高価格、下:低価格」から「上:コスパの良さ(低価格)、下:高級志向(高価格)」に変更することによって、「右上」のマトリックスを、「コスパが良くて耐久性が高い=最もニーズのあるゾーン」にするとともに、「当品」が「A社」「B社」などの商品群よりも「右上」に配置することで、市場において「比較優位性」を有することを体感しやすくしているわけです。
もちろん、本来、縦軸は「上:高価格、下:低価格」に設定したほうが、人間の直感に合致していますから、市場における「ポジションニング(商品特性)」を示す場合には①のパターンの方が望ましいと言えますが、「比較優位性」を強調したい場合には、なるべく自社や自社商品が「右上」に配置されるように工夫したほうがいいのです。
なお、ここまで述べてきたことは、自社商品の比較優位性を表現する場合です。逆に、自社商品が劣位にある危機感を表現する場合には、マトリックスの「左下」に自社商品が来るように工夫します。要するに、目的に応じて配置を工夫するということです。
ここまでの議論でもわかるように、「マトリックス型」の図解において、2つの重要なポイントがあります。
第1に、「ポジショニングを説明するため」「比較優位性をアピールするため」といった、スライドの目的を明確にすること。そして第2に、その目的に照らして、最も適切な「縦軸/横軸」を設定するということです。この2点を念頭に置きながら「マトリックス型」の図解スライドをつくれば、非常に効果的なプレゼンができるようになるはずです。
(本稿は、『プレゼン資料の図解化大全』より一部を抜粋・編集したものです)
1973年生まれ。ソフトバンクモバイルなどで17年にわたり移動体通信事業に従事。ソフトバンクアカデミア第一期生に選考され、プレゼンテーションにおいて第一位を獲得する。孫正義社長に直接プレゼンして幾多の事業提案を承認されたほか、孫社長のプレゼン資料づくりも数多く担当。2013年12月にソフトバンクを退社、株式会社固を設立して、プレゼンテーションクリエイターとして独立。2000社を超える企業で、プレゼンテーション研修やコンサルティングを実施。ビジネス・プレゼンの第一人者として活躍中。著書に『【完全版】社内プレゼンの資料作成術』『プレゼン資料のデザイン図鑑』『パワーポイント最速仕事術』(すべてダイヤモンド社)など。
堀口友恵(ほりぐち・ともえ)
埼玉県秩父市生まれ。立命館大学産業社会学部卒業後、ソフトバンクへ入社。技術企画、営業推進、新規事業展開などを担当する中で、プレゼンの経験と実績を積む。2017年に株式会社固へ転職し、スライドデザイナーとしての活動を始める。企業向け研修・ワークショップの担当や大学非常勤講師のほか、大手企業などのプレゼンのスライドデザインを担当し、のべ400件以上の資料作成やブラッシュアップを手がける。前田鎌利著の『プレゼン資料のデザイン図鑑』『パワーポイント最速仕事術』のコンテンツやスライドの制作にも深く関わった。ITエンジニア本大賞2020プレゼン大会にて、ビジネス書部門大賞・審査員特別賞を受賞。小学生向けのオンライン講座「こどもプレゼン教室」を運営し、子どもたちのプレゼンスキルアップの支援も行っている。