どうやって部下とチームを育てればいいのか? 多くのリーダー・管理職が悩んでいます。パワハラのそしりを受けないように、そして、部下の主体性を損ねるリスクを避けるために、一方的に「指示・教示」するスタイルを避ける傾向が強まっています。そして、言葉を選び、トーンに配慮し、そっと「アドバイス」するスタイルを採用する人が増えていますが、それも思ったような効果を得られず悩んでいるのです。そんな管理職の悩みを受け止めてきた企業研修講師の小倉広氏は、「どんなに丁寧なアドバイスも、部下否定にすぎない」と、その原因を指摘。そのうえで、心理学・カウンセリングの知見を踏まえながら、部下の自発的な成長を促すコミュニケーション・スキルを解説したのが、『優れたリーダーはアドバイスしない』(ダイヤモンド社)という書籍です。本連載では、同書から抜粋・編集しながら、「アドバイス」することなく、部下とチームを成長へと導くマネジメント手法を紹介してまいります。

【脳科学が警告】上司の“正しいアドバイス”が部下を苦しめる決定的理由写真はイメージです Photo: Adobe Stock

マイナス感情が生じると、「理性」が働かなくなる

 アドバイスの99%は逆効果である――。

 私は、そう考えています。なぜアドバイスはそんなにも効果がないのでしょうか。
 ここでは、生物学的観点から考えてみたいと思います。

 まず、人間の脳はそもそも理性的にできていません。
 理性と感情が葛藤した場合、勝利者は常に感情です。

 人間の理性を司る脳の部位は大脳新皮質、なかでも前頭前野です。一方で、感情を司る脳の部位は大脳辺縁系にある扁桃体です。

 マイナスの感情が強く発動しているとき、この扁桃体が過剰に活性化していると考えられています。

 そして、このときに理性を司る前頭前野の血流量が低下し、活動が減弱していることが明らかになっています。

 まさに感情が理性を支配し、理性が働かなくなっている状態。感情が勝利しているのです。

 つまり、上司がどんなに正しいアドバイスをしていたとしても、部下が「自分の言動を否定されている」と感じているとすれば、そのとき部下の扁桃体は活性化し、強いマイナス感情が発動しているということです。

 すると、部下の理性を司る前頭前野の活動が減弱し、アドバイスは全く頭に入ってこなくなります。

 皆さんにも経験があるのではないでしょうか?
 クライアントからクレームを受けたとき、上司から叱責されたとき、頭が真っ白になり言葉が入ってこなかったという経験が。そして、「アドバイスは効果がない」ということが、よくわかるのではないでしょうか。

人間は「陰性感情」の方が強い

 感情は自分の状態をモニターし、自分を護るために必要な行動を発動する重要な機能を担っています。
 たとえば、恐怖の感情は自分が危険な状況にあることを自らに教え、回避行動を取るよう自分を動かすために必要です。

 また、怒りの感情は、危害を加えられ、尊厳を傷つけられたときにそれに気づき、相手の行動をやめさせるために必要です。

 感情には「恐怖」や「怒り」のような陰性感情だけでなく、「喜び」や「満足」などの陽性感情もあります。

 しかし、「自分の生命を護ることが第一である」という生物学的目的から、陰性感情の方が種類が多く、作用も強く働きます。

 2024年に大ヒットしたディズニー映画『インサイド・ヘッド2』の主人公は複数の感情です。

 そこに出て来る九つの感情のうち、実に八つが陰性感情(カナシミ、シンパイ、ムカムカ、ビビリ、イカリ、イイナー、ダリィ、ハズカシ)で、陽性感情はわずか一つ(ヨロコビ)であることからも、それがよくわかるでしょう。

 このように、動物である僕たちは強いマイナス感情を理性で抑えることは不可能です。

 それは本人の性格の問題でもなければ、努力や意思の強さの問題でもありません。人間である限り、世界中80億人の全員が理性よりも感情が強く働くのです。

 そして、マイナスの感情が生じているときには、どんなに正しい言葉をかけられたとしても、それを理性的に受け止めることが極端に難しくなるのです。

 だから、アドバイスは「逆効果」なのです。