株式投資界隈をザワつかせている話題の本がある。YouTubeで人気を博す栫井駿介氏の最新刊『買った株が急落してます!売った方がいいですか?』だ。発売から1週間も経たないうちに増刷が決まるほどの大好評だ。
この物語に登場するのが、個人投資家たちがひそかに通うひばり投資診療所の冷酷な女医・忌部あかり。彼女の診療は、単なるアドバイスではなく、投資家として生まれ変わるための“荒療治”だ。作中でエリート商社マン・波野衿人を叩き直した忌部あかりが、今度はあなたの投資相談に乗る。
「買った株が下がって焦っている」「利益が出たのに、どこで売ればいいか分からない」「決算が良いのに、なぜか株価が暴落……」そんなあなたの迷いに、忌部あかりが診断を下す。優しくなんてしない。でも、あなたを勝てる投資家へと導くために。さあ、診察室へどうぞ──覚悟はできている?(構成/栫井駿介、ダイヤモンド社書籍編集局)

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東京エレクトロン(8035)の株、保有したままでいい?

【相談内容】

昨年2月に東京エレクトロンの株を3万4000円付近で買いました。

そのときは勢いがすごくて、一時は4万円超え。年末には「5万円行くぞ!」みたいな声も多くて、期待してました。……が、夏頃からズルズル下がり続けて、今じゃ30%以上の含み損です。

このまま保有し続けて大丈夫でしょうか?

【株価不振】東京エレクトロン、今は買い時?売り時?保有したままで大丈夫?チャートは、TradingViewより提供

株式投資とギャンブルの差

── 30%以上の含み損です。このまま保有していて大丈夫でしょうか?

忌部あかり(以下、忌部):そもそも、どうして東京エレクトロンを買ったわけ?

── いや、ほら…SNSで「AI時代に半導体を買わないやつは情弱」みたいな話が出てて…。半導体関連の中でも東京エレクトロンって最大手っぽいし。これは来るなと…。

忌部:あ~はいはい。つまり「誰かがSNSで話題にしてるから」「なんかすごそうだから」で買ったのね。自分で調べたり考えたりすることもせずに。

── それなりに考えましたって!

〈AIが伸びる→半導体が必要→最大手の東京エレクトロンが強い〉って筋が通ってるじゃないですか!

忌部:そのロジック、小学生でも思いつくわ。半導体業界が伸びるのは、そうかもしれない。でも、その中でも「なぜ東京エレクトロンなのか」って話よ。

最大手ってだけで株価が上がるなら、誰も苦労しないわ。大手の会社であることとこれから株価が伸びるかどうかは関係ない。

どうして、数ある半導体関連の会社の中で東京エレクトロンに投資しようと思ったのよ。東京エレクトロンがどんな会社なのか知ってるの?

── ……ざっくりとは。半導体製造装置の会社ですよね。

忌部:それで?この会社の強みは何なの?

── ……

忌部:はぁ…。本当に何も考えずに雰囲気で株を買ったのね。

東京エレクトロンは、半導体製造装置をつくってる会社。ウェハと呼ばれるシリコンの板の上に、写真の技術を応用して電子回路パターンを形成するんだけど、その工程に必要な機械を作ってるのよ。

東京エレクトロンが特に強みを持つのは、回路パターンが描かれたガラス(フォトマスク)をウェハに合わせて、UV光を当てることで、ウェハに回路を転写する工程よ。そこで使われる「コータ・デベロッパ」と呼ばれる、感光材塗布と現像を行う装置があるんだけど、この装置で世界的に圧倒的なシェアを獲得してるの。そのほかにも…

── ちょ、ちょっと待ってください!えっと…何言ってるかわかりません。細かい仕組みまで知らないとダメなんですか?素人には半導体装置の細かい話なんて、わかりませんよ。

忌部:わからないものにお金を突っ込んでるってことよね?それは投資じゃなくて、ただのギャンブル。ギャンブルがしたいなら、止めないけどね。

SNSの空気だけで買って、下がったらオロオロ。見てられないわ。「わからないもの」に投資をすることが、大きなリスクだってことがわからないの?

── リスクだって言ったら何にも投資できませんよ。素人は半導体に投資するなって言うんですか? それこそ、世の中の流れについていけず、チャンスを見逃すだけですよ!

忌部:ただ半導体の時流に乗りたいだけなら、半導体関連の投資信託って選択肢もあるのよ。自分に合った銘柄を選びなさい。自分に合った銘柄じゃないから、どうすればいいかわからなくなってるんじゃない。

リスクを取らなきゃチャンスを逃すっていうけど、リスクを管理できないようじゃ、投資じゃないわ。

もう一度繰り返すけど、あんたがやってることはギャンブルよ。

株価と業績の関係性

── でも…東京エレクトロンの業績は悪くないんですよ。業績は一応チェックしてるんですから。

2025年3月期の会社予想では、対前期で売上高は+31%、営業利益は+49%です。なのに株価が数十%も下がるって、おかしくないですか!?

忌部:本当に考えが甘いわね。いい、数ヵ月単位の株価を動かしてるのは、その株を取引する人間の心理。その中で業績は心理を動かす材料でしかないの。

特に半導体なんて、ただでさえ変動が大きいのに注目が集まったもんだから、数十%株価が下がるなんて日常茶飯事よ。

── でも、だったら何を信じれば…

忌部:自分自身。ちゃんと調べて「これは納得できる」と思える銘柄に投資すること。それが唯一の答えよ。

短い期間なら業績は材料にしかならないけど、業績が積み上がればやがてそれが「基準」になるわ。東京エレクトロンの将来に自信を持ってる長期投資家なら、下落はむしろチャンスと思ってるかもしれないわね。

会社の中身には目を向けず、株価だけ見て不安になってるなら、あんたの強がりは、ただの希望的観測だってこと。

バフェットは、「リスクは、自分が何をしているのかわからないことから生じる」と言っているわ。

投資っていうのは、「分からないからこそ調べる」「理解できないなら避ける」っていう判断ができなければ、一生勝てるようになんてなれないわ。

※本記事は、『買った株が急落してます!売った方がいいですか?』(栫井駿介・著)の登場人物・忌部あかりをもとにしたフィクションです。