プーチン氏の戦争経済、トランプ貿易戦争の影響不可避Photo:Anadolu/gettyimages

 ロシアはドナルド・トランプ米大統領が打ち出した「解放の日」関税を免れたが、それでもある理由から同氏の貿易戦争に危険なほどさらされている。それは石油だ。

 石油産業はロシア経済の原動力であると同時に、脆弱(ぜいじゃく)性の主な原因でもある。石油・ガス産業からの収入が国家財政収入の約3分の1を占めるからだ。

 世界の原油相場は今月、関税に伴うリセッション(景気後退)懸念の高まりを受けて急落し、今も不安定な状態にある。ロシア産原油の指標であるウラル原油価格は、1バレル=55ドルを下回る水準で推移している。これは今年の国家予算で目標とされる70ドル前後を大きく下回る。アナリストらによると、原油相場が低水準にとどまれば、ロシア経済はハードランディング(強行着陸)に直面する見通しだ。その場合、今年の財政赤字はほぼ倍増するだろうという。

 こうした状況の悪化は、ロシア政府にとって危うい時期に起きている。ロシア経済は原油相場が急落する前から既に減速していた上、政府はウクライナとの停戦を巡り米国と交渉中だ。ロシア政府は、戦場で優位に立つことでこうした協議で最大限の譲歩を引き出すことができると考え、和平交渉に消極的な姿勢を示している。

 現在の原油相場の水準では、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が軍事作戦の中止に追い込まれる公算は小さいが、さらに相場が下落すれば、同氏の計算が変わる可能性がある。一方、原油相場の急落によってロシア政府は痛みを伴う選択を迫られるとアナリストは指摘する。

 米シンクタンク、ピーターソン国際経済研究所の非常駐シニアフェロー、エリーナ・リバコバ氏は「原油価格が安いままなら、彼らは危機を感じるだろうし、既にそうした危機を感じ始めている。これが続けば、軍事か経済かの選択を迫られるだろう」と話す。

 JPモルガンのアナリストは先週の顧客向けメモで、ロシアは制裁や国際関係の断絶によって世界的なトレンドの影響を受けにくくなっているものの、「米国の通商政策がもたらす津波に対して、無傷でいられることはなさそうだ」と述べた。