YouTubeチャンネル「精神科医がこころの病気を解説するCh」で、メンタルの病気について発信し続けている、早稲田メンタルクリニック院長の益田裕介医師。本記事では、日韓累計40万部を突破したベストセラー『人生は「気分」が10割 最高の一日が一生続く106の習慣』(キム・ダスル著、岡崎暢子訳)の邦訳1周年を記念して、益田裕介医師に気分とメンタルの関わりについてインタビューを行った。本記事では、連休最終日の過ごし方について精神科医の視点から解説する。(取材・文 ダイヤモンド社書籍編集局 工藤佳子)

【明日が少しラクになる】寝てばかりいた連休最終日にやるべきたった1つのことを人気精神科医が解説Photo: Adobe Stock

最終日は「心の準備」を

――何も予定がないまま寝てばかりのゴールデンウィークを過ごして、気づけば最終日……。そんな人はどう過ごせばいいのでしょうか?

益田裕介(以下、益田)もう、普通に明日からの仕事の準備をしたらいいと思いますよ。仕事で何があるのか、誰と会うのか、どんなやり取りがあるのか

 それを頭の中でシミュレーションするだけでも全然違います。明日を“自分の意思で始める”っていう感覚が持てたら、気持ちがだいぶラクになるはずです。

――とはいえ、気力が出なかったり、誰とも会っていなかったりすると、孤独を感じがちです。

益田 そんなときは、友達に連絡してみるのもいい案外、向こうも暇かもしれませんよ

 あるいは、YouTubeのコメント欄に自分の気持ちを書いてみるだけでもいいし、SNSでもいいどこかに“誰かとつながる”っていう感覚を持てると、それだけでもだいぶ違います。

「仕方がない」
「生まれてきてよかった」

――1日でも効果的な「学びの時間」を持てたら前向きになれそうです。

益田 そうですね。夏休みの計画を立ててみるとか、明日からやることをAIに箇条書きで整理してもらうとか。それだけで、だいぶ頭の中が整理されてくる。

 あと、「学ぶ」ってことはすごく大切です。精神科の治療のゴールは、「仕方がないと思えること」と「生まれてきてよかったと思えること」。そのための“学び”なんですよね。

 だから、認知行動療法や精神分析など、既に体系化された精神療法の考え方を少しずつ取り入れていくといいと思います。Wikipediaを読むだけでもいいし、分からないことがあればAIに聞けば中学生でも分かるように教えてくれる

――「仕方ない」と思える心の状態って、たしかに大切ですよね。

益田 そう。嫌な気持ちになっても、それを抱えたまま次の行動に進めたら、それはもう“病気”じゃないんです。

 たとえば、お酒を飲みたいなと思っても我慢して仕事に行けるなら、それでOK気持ちはゼロにはならないけど、ちゃんとやれるってことが大事なんです。

――そしてもうひとつ、「生まれてきてよかった」と思える瞬間についても何度か言及されています。

益田 これは、宗教的なインスピレーションに近い感覚なんですよね。いろんな経験や知識が重なって、「ああ、自分は許されたんだ」とか「世の中とつながってるんだ」とふっと感じられる瞬間がある。

 それを“天啓”とか“アハ体験”と呼ぶ人もいる。

 僕自身で言えば、子どもの卒園式に出たとき、「生まれてきてよかったな」と思ったことがありました。準備してきたことが報われたというより、「ああ、なんとかなったな」と感じる

 人生にそんな瞬間が何度かあると、人は前向きに生きられるんだと思います。

――患者さんの中にも、そういう瞬間を語る方はいますか?

益田 いますね。たとえば、親の葬儀に参列したときとか、子どもが生まれた瞬間とか。

「一度でも生まれてきてよかったと思えた瞬間」があることが大事なんです。ずっとそう思っている必要はない。

 つらいときはまたつらくなるけど、そういう記憶がどこかに残っているだけで、何かの支えになるから。

――そういう瞬間を体験できるかどうかは、人によって違いそうですね。

益田 そうですね。たいていは年齢を重ねることで、そういう境地に近づいていくのかもしれません。

若いうちはなかなか難しいけど、それでもふっと訪れることはあると思います。だから、無理に焦らなくていいし、そんな感覚がもしきたら、全身で受け止めてみてください

――死ぬ時に「生まれてきてよかった」と思えたら理想的ですが……。

益田 いや、死ぬ時には思えないんじゃないかな。苦しいですからね。そういうことじゃないと思う。

むしろ、もっといろんなものががっちりと整った瞬間に、ふっと訪れるような感覚に近いのかもしれません。

益田裕介(ますだ・ゆうすけ)
早稲田メンタルクリニック院長。精神保健指定医、精神科専門医・指導医
防衛医大卒。防衛医大病院、自衛隊中央病院、自衛隊仙台病院(復職センター兼務)、埼玉県立精神神経医療センター、薫風会山田病院などを経て、早稲田メンタルクリニックを開業。YouTubeチャンネル「精神科医がこころの病気を解説するCh」を運営し、登録者数60万人を超える。患者同士がオンライン上で会話や相談ができるオンライン自助会を主催・運営するほか、精神科領域のYouTuberを集めた勉強会なども行っている。著書に『精神科医が教える 親を憎むのをやめる方法』(KADOKAWA)、『精神科医の本音』(SBクリエイティブ)、『【心の病】はこうして治る まんがルポ 精神科に行ってみた!』(扶桑社)、『眠れなくなるほど面白い 図解 メンタルの話 メンタルの悩みとギモンを専門医がすべて解決!』(日本文芸社)などがある。