【社説】ドイツ新首相、何とか選出されたがPhoto:Carsten Koall/gettyimages

 世界中で政治的混乱の度合いは増しており、長年安定していたドイツでさえも予想外の事態が相次いで起きている。6日の出来事は特に大きかった。ドイツ連邦議会で フリードリヒ・メルツ氏が首相に選出されるために2回目の投票が必要になった のだ。このことは、欧州最大の国であるドイツが依然、深刻な分断状態にあることを示している。

 メルツ氏が1回目の投票で獲得した票数は首相選出に必要な316票に6票足りなかった。同氏が率いる中道右派のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と中道左派の社会民主党(SPD)は新連立政権の樹立で合意しており、その議席数は計328だ。つまり、連立予定の政党の全議員のうち、18人がメルツ氏の下での新政権樹立に賛成しなかったことになる。無記名投票のため、どの議員が造反したのかや、その理由は、本稿の執筆時点で明らかになっていない。

 メルツ氏は数時間後に行われた2回目の投票で何とか首相に選出された。これは戦後ドイツの歴史において前例のない事態だ。メルツ氏とSPDは、2月の総選挙後、何週間もかけて連立のための詳細な政策課題について交渉し、各省庁の閣僚ポストを分け合った。1回目の投票は形式的なもののはずだった。明らかに水面下で政治的不満の泉が湧き出ている。

 2月の総選挙では、有権者が大きく分断されていることが明らかになり、その状況が反映された議会が誕生した。大半の有権者は何らかの形で右派寄りの政権を望んでいた。だが票は割れ、メルツ氏率いるCDU・CSUが得票率28.6%、自由市場主義を掲げる自由民主党(FDP)が4.3%(議席獲得に必要な得票率に満たない)、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が20.8%となった。AfDはネオナチ過激派と非難されている党内勢力の一掃を拒否しているため、他の政党がAfDと連立を組むのは難しい。