営業や社内調整で役立つ「クッション枕詞」とは?
20万部のベストセラー、200冊の書籍を手がけてきた編集者・庄子錬氏。NewsPicks、noteで大バズりした「感じのいい人」の文章術を書き下ろした書籍『なぜ、あの人の文章は感じがいいのか?』(ダイヤモンド社)を上梓しました。
実は、周囲から「仕事ができる」「印象がいい」「信頼できる」と思われている人の文章には、ある共通点があります。本書では、1000人の調査と著者の10年以上にわたる編集経験から、「いまの時代に求められる、どんなシーンでも感じよく伝わる書き方」をわかりやすくお伝えしています。

依頼、提案、説得するときに「一言」入れるだけ!
営業や社内調整のメール・チャットの場面で、相手をモヤッとさせずにうまく自分がもっていきたい方向に誘導できる人がいます。
そういう人たちの文章を観察すると、相手がメッセージを受け取りやすくするような言葉、いわば「クッション枕詞」をよく使っていることに気づきます。
クッション枕詞とは「お手数をおかけしますが」「もし可能でしたら」など、説得、提案、依頼、質問、反論といったシーンで使える言葉です。
クッション枕詞は、大きく2つの方向性に分かれます。
①下から入る
代表的なのが「お手数をおかけしますが」「お忙しいなか恐縮ですが」など、申し訳なさや謙虚さを表現するときに使います。
②前を向かせる
「生産性をより高める提案なのですが」「コスト削減につながりそうな案件がありまして」など。相手のメリットを先出しすることで、「おもしろそうだな」「どういうこと?」と思わせたり、モチベーションを上げさせたりと、前のめりになって読み進めてもらえる効果があります。
みなさん、きっと「下から入る」のほうは日常的に使っていることと思います。ぼくもメールやチャットでしょっちゅう使っています。
一方で「前を向かせる」は難易度が高いというか、ぱっと出てきづらいですよね。結果、レパートリーが「恐れ入りますが」と「お手数おかけしますが」しかないという人も多いのではないでしょうか。
以下で紹介する例では、「下から入る」だけでなく「前を向かせる」も入れています。自分が使うシーンを想像しながら読み進めてみてください。
※「下から入る」には「(下)」、「前を向かせる」には「(前)」を入れています。
質問するときに使えるクッション枕詞
相手から情報を引き出したいとき。ただ質問を投げかけるだけだと、相手は「押しつけがましいな」「尋問されてるみたい」と感じてしまうかもしれません。そんなときはこんなクッション枕詞を使うと、質問の威圧感を減らせます。
(下)門外漢で恐れ入りますが
→ 専門外の話題を扱うときに使えます。
(下)◯◯で悩んでいてご意見を頂戴したいのですが
→ 自分の課題を率直に示すことで、相手の協力を得やすくなります。
(前)他の人も気になっていると思うのですが
→ 「自分だけでなく、みんなにとって価値がある質問です」という含みがあるので、相手も「ではシェアできる情報として話そう」と前のめりになりやすくなります。
(前)◯◯さんがこれだけの実績を出している秘訣を知りたいのですが
→ 相手の成功を認めつつ、学ぶ姿勢も示せます。
【例】
・門外漢で恐れ入りますが、みなさんがよく使っているCRMってエクセルでの業務管理となにが違うのでしょうか?
・新入社員の教育で悩んでいてご意見を頂戴したいのですが、小林さんは過去にどのような取り組みをして新入社員との距離を近づけたのでしょうか。
・他の人も気になっていると思うのですが、その美肌を保つ秘訣って教えてもらえたりしますか?
提案するときに使えるクッション枕詞
新しく提案するときの文章って悩みますよね。
とくに上司やクライアントに対しては、相手の立場や経験を意識しながら言葉を選ばなければなりません。
そんなシーンでは、次のようなクッション枕詞が役立ちます。
(下)ジャストアイデアですが
→ 相手の反応を見たいときに便利です。
(前)ぜひこれだけはお伝えしたいのですが
→ こう書かれたら先を読み進めたくなりますよね。
(前)従来の方法とは異なりますが、◯◯につながりそうな案がありまして
→ 変化への抵抗を和らげつつ、こちらの前のめり感もアピールできます。
(前)貴社の◯◯に沿った提案をさせていただきたいのですが
→ アポをとるときにも使えそうです。
【例】
・ジャストアイデアですが、西村さんチームと水上さんチームのメンバーを一時的に入れ替えるのはどうでしょうか。
・営業部の長期的な成長を見据えた提案なのですが、海外市場への進出を検討する時期に来ていると感じます。具体的には~~。
・貴社のビジョンに沿った提案をさせていただきたいのですが、以下の日程でお時間を頂戴することは可能でしょうか。
議論の方向性を変えたいときのクッション枕詞
仕事上でやりとりをしていると、議論が建設的でない方向に進んでしまったり、核心から外れてしまったりすることがありますよね。
そんなとき、さりげなく話題の方向性を変えるのに便利なクッション枕詞があります。
(下)別の観点から考えると
→ 現在の議論に新しい視点を入れるときに効果的です。
(下)ちなみに
→ 会話の流れを変えずに、補足的な内容を自然に追加するときに使えます。
(下)ところで◯◯に関してなのですが
→ 話題を切り替えるときにおすすめです(「ところで」は本当に万能ですよね)。
(前)この議論をより深めるために別の切り口で考えてみると
→ ちょっと知的に見える言い回しです。
【例】
・別の観点から考えると、そもそもAIやIoTの活用以前に、まず現状の業務フローを改善する必要があるかもしれません。
・ちなみに、来週行くお店の予約ってもうできてますか?
・ところで月末の社員研修に関してなのですが、今回はオンラインでの開催に変更してもよいと思っています。
どうでしょうか。
いずれも、相手への配慮を示しつつ、自身が望ましい方向に導くクッション枕詞です。
ただし注意点があります。
それは「業界や状況などによって適切さが変わる」ということ。
たとえば、「ちょっとしたアイデアがあるんですが」のようにより直接的でカジュアルな表現が好まれる業界、企業もあるでしょうし、反対に「誠に恐縮ではございますが」のようなフォーマルな表現がよしとされる業界、企業もあるはずです。
一括りに「これ」と決めつけず、シーンや相手の立場に合わせてアレンジしてみてください。
1988年東京都生まれ。編集者。経営者専門の出版プロデューサー。株式会社エニーソウル代表取締役。手がけた本は200冊以上、『バナナの魅力を100文字で伝えてください』(22万部)など10万部以上のベストセラーを多数担当。編集プロダクションでのギャル誌編集からキャリアをスタート。その後、出版社2社で書籍編集に従事したのち、PwC Japan合同会社に転じてコンテンツマーケティングを担当。2024年に独立。NewsPicksとnoteで文章術をテーマに発信し、NewsPicksでは「2024年、読者から最も支持を集めたトピックス記事」第1位、noteでは「今年、編集部で話題になった記事10選」に選ばれた。企業向けのライティング・編集研修も手がける。趣味はジャズ・ブルーズギター、海外旅行(40カ国)、バスケットボール観戦。
※この連載では、『なぜ、あの人の文章は感じがいいのか?』庄子 錬(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集して掲載します。