エヌビディアCEO、地政学的大物に リスクもPhoto:Slaven Vlasic/gettyimages

【台北】米大統領はこの人物を「友人」と呼び、サウジアラビアは彼の会社の半導体チップを大量購入し、生まれ故郷では「チーム台湾のリーダー」と称賛された。

 米画像処理半導体(GPU)大手エヌビディアのジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)は、1カ月にわたって慌ただしく世界各地を巡り、今週台北でその歴訪を締めくくった。行く先々での歓待ぶりから見えてくるのは、同氏が単なる大物実業家にとどまらない、世界の地政学に影響力を持つ有力者だということだ。

 誰もがこのカリスマ的CEOに会いたがり、最先端人工知能(AI)用として絶対的な基準とされるエヌビディア製チップを欲しがっている。投資家はフアン氏の世界デビューを祝福し、同社の株価をここ1カ月で40%押し上げた。1月の株価急落は遠い記憶となり、時価総額は3兆3000億ドル(約478兆円)と再び世界首位を伺う。

 だが国際的な名声にはリスクも伴う。フアン氏は中国やペルシャ湾岸諸国といったセンシティブな地域でも事業を展開している。

「同氏の幸運と不運は、この10年で最も価値のあるテクノロジー材料を生み出したことだ」。米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)のバラス・ハリサス上級研究員はこう指摘する。「リスクは、同氏の知名度が足かせになることだ。湾岸諸国が混乱に陥れば責任を押し付けられ、中国で行き過ぎとみなされる事態になれば政治的圧力に直面する可能性がある」

 フアン氏のプロセッサーと投資支出は各国の運命を変える力を持ち、62歳の富豪である同氏も自身の影響力に応じて変貌を遂げた。いつもの革ジャンを脱ぎ捨てスーツとネクタイで世界のリーダーと会談し、トークンやテラバイトについての営業トークに政治家への賛辞を付け足した。

「大統領のリーダーシップや政策、支援、そしてこれが非常に重要だが、強力な後押しがなければ(中略)率直に言って米国での製造ペースはここまで加速しなかっただろう」。フアン氏は4月30日、米ホワイトハウスでドナルド・トランプ大統領の傍らでこう述べた。