エヌビディア AI王者と台湾の黒子#1Photo:Bloomberg/gettyimages

米エヌビディアの経営の核となる原動力は、創業者兼CEOのジェンスン・フアン氏自身のビジョンと魅力から来ている。彼は不可能が最終的には達成されると周囲の人々に信じ込ませることが得意だ。今はまだ、フアン氏のAIを巡る大きな夢の始まりにすぎない。特集『エヌビディア AI王者と台湾の黒子』(全7回)の#1では、AIブームの立役者となったエヌビディアの創業者、フアン氏の素顔に迫る。(台湾「財訊」 林宏達、翻訳・再編集/ダイヤモンド編集部副編集長 大矢博之)

「AIでエヌビディアの収益は10倍になる!」
創業者が10年前に社員に語った言葉

 人工知能(AI)半導体により、台湾のコンピューター産業は再び黄金時代を迎えた。時代の転換点を理解したければ、米半導体大手エヌビディアの創業者であるジェンスン・フアン氏を理解する必要がある。

 30年前、エヌビディアは画像処理半導体の設計会社として創業した。当時、製品を必要とするのは熱狂的なゲーマーだけだった。30年後、エヌビディアは画像処理半導体会社からAI界のリーダーへと生まれ変わった。この変化は、フアン氏自身と大きく関係している。彼は“烈火”のような存在で、常に自らのビジョンを他人に伝え続けてきた。

 エヌビディアのある社員によれば、フアン氏は時折、「タウンホールミーティング」と呼ばれる社内会議を開くそうだ。「何でも聞いていい場だ。通常は会社の将来のビジョンについて議論され、ジェンスンは3時間話す」とこの社員は明かす。

 10年前、フアン氏は会議で社員にこう述べたという。「AIは将来非常に重要になる。われわれの将来の収益は現在の10倍になるだろう!」。また時折、フアン氏は会議で新しいアイデアを投げ掛けるといい、「数年前に口にしていたのは医療で、最近言及が最も多いのは車だ」(前出の社員)。

 10年前は金融危機の直後で、当時は社員たちも半信半疑だった。「AIは本当に実現するのでしょうか?」「会社はいつ他企業と同じようにボーナスを支払うのですか?」。当惑した社員が、フアン氏にこう尋ねたこともあったという。フアン氏はただこう答えた。「私があなたに支払う給料もとても良くなるよ!」。もちろん、10年前にフアン氏のビジョンに同意した社員は皆、現在かなりの額の報酬を受け取っている。