いつも謙虚で控えめなのに、なぜか一目置かれる人がしていることとは? 世界で話題となり、日本でも20万部を超えたベストセラー『「静かな人」の戦略書』の著者、ジル・チャンが待望の新作を刊行。謙虚な人ならではの作戦を伝授する『「謙虚な人」の作戦帳――誰もが前に出たがる世界で控えめな人がうまくいく法』だ。台湾発、異例のベストセラーとなっている同書より、特別に内容の一部を公開する。

謙虚な態度で「堂々と」振る舞う
プロモーションで日本を訪問したとき、私は出版社の編集者に尋ねた。
「もしできたら、営業部にも熱心に宣伝してくださっているお礼を言いに行きたいのですが、かまいませんか?」
取材の予定がいっぱいつまっていたので、ランチタイムを5~10分使って挨拶に行くことになった。
営業部に足を踏み入れたとき、目の前には想像もしていなかった光景が広がっていた。仕切りのないワンフロアのオフィスに大勢の人が集まり、それぞれ自分のデスクの前に立って、満面の笑みと何デシベルもの大きな拍手で私を迎えてくれたのだ。
予想もしていなかった状況に、私は思わず振り返って、編集者に「どうしよう?」と訊いてしまった。
いっそその場から逃げ出したいくらいだった。
あのとき私は本当に、何かの間違いじゃないかと思ったのだ。
私なんて、ただの会社員にすぎない。なんだってこんな大々的に迎えてくれるんだろう?
営業部のマネージャーが私の手をにぎって「ロングセラー本を執筆してくださってありがとうございます」と言ってくれたので、私は「いえ、私は何もしていません」と答えた。本当にそう思っていたのだ。私がしたのは本を書くことだけで、それ以外にはまったく何もしていないのだから。
「ごまをする気持ち」になっていないか?
アメリカのスタートアップ専門投資家フラン・ハウザーは、著作『ナイスガールの神話(The Myth of the Nice Girl)』(未邦訳)で、「自己卑下」と「謙虚」は紙一重だと書いている。
とくにあなたが何かしらのポジション(マネージャー、チームリーダー、プロジェクトリーダー)に就いているなら、自分の欠点を認めるなど、ちょっとした人間らしさを見せると、相手に親しみを感じさせ、圧迫感を与えることなく関係をつくりやすくなる。
だが、これは自己卑下とは違う。
自分を卑下する行為は、ごまをするような気持ちから生まれるもので、相手にマイナスのイメージを与えるばかりか、あなたは信頼できない人間だと思わせてしまう。
もし私が、大きな拍手に包まれたあの瞬間にもう一度戻れるとしたら、今度は、
「ありがとうございます。力を尽くし、真心をこめて、この本を書きました。日本の読者のみなさんに届けてくださって、ありがとうございます。こんなにも多くの方に気に入っていただけてうれしいです」
と慎ましく、しかしはっきりと言おう。
(本記事は、ジル・チャン著『「謙虚な人」の作戦帳』からの抜粋です)