いつも謙虚で控えめなのに、なぜか一目置かれる人がしていることとは? 世界で話題となり、日本でも20万部を超えたベストセラー『「静かな人」の戦略書』の著者、ジル・チャンが待望の新作を刊行。謙虚な人ならではの作戦を伝授する『「謙虚な人」の作戦帳――誰もが前に出たがる世界で控えめな人がうまくいく法』だ。台湾発、異例のベストセラーとなっている同書より、特別に内容の一部を公開する。

心が弱ったらどうする?
私は『NARUTO』に登場する「影分身の術」が好きだ。それは忍術の1つで、実体と意識を持ち、一定の動作もできるし、用が済んだら回収もできる分身を生み出すのだ。
ボー・ジャクソンは、MLBの野球選手およびNFL(ナショナル・フットボール・リーグ)のフットボール選手という2つのプロスポーツを兼業し、両方のオールスター戦に出場を果たした初めての人物だ。
彼は幼いころから感情のコントロールが苦手で、よく厄介な状況に巻き込まれていた。
ところがホラー映画『13日の金曜日』で、冷酷で計算高い殺人鬼ジェイソンを観て腰を抜かし、それ以来、試合に出るときには、心のなかで変身して、ジェイソンになりきるようになった。
この「分身の術」は、試合中に高い集中力と冷静さを維持するのに大いに役立ち、おかげで彼は輝かしい成績を残すことができた。
「最高の分身」になりきる
なんと、あのビヨンセもこの方法を知っていた。仕事をするときやステージに立つとき、彼女は「サーシャ・フィアース」という分身を使うのだ。
この分身はプライベートのときの彼女よりも「面白くて、官能的で、好戦的で、率直で、華やか」と彼女は言う。
この「サーシャ・フィアース」という分身がいるからこそ、彼女は女王らしい自信と魅力に満ちあふれた姿で人前に立つことができる。そしてそんな彼女を、人々は「クイーン・ビー」と呼ぶ。
だが、サーシャ・フィアースの存在を明かしてから2年後にふたたびこの話題になったとき、ビヨンセは、「サーシャ・フィアースはもう必要なくなったの。いまは歌手として成功したし、たくさん成長もしたから、サーシャ・フィアースに自信をつけてもらわなくても大丈夫。だから私は自分とサーシャ・フィアースを合体させたのよ」と語っている。
「もうひとりの自分効果」の影響
分身の術は、さまざまな状況、とくに強い意志を必要とする状況で役立つことがあるかもしれない。
心理学において分身は「オルターエゴ(alter-ego)」と呼ばれる。つまり「もうひとりの自分」だ。
異なる人格や異なるペルソナを持つことで、もともとの人格ではできないことができるようになる。これは「もうひとりの自分効果(alter-ego effect)」と呼ばれる。
分身を使うことによって自尊心や自信、モチベーション、忍耐力などのパフォーマンスが向上することが、研究で証明されている。
だが過度にそれに頼りすぎると、認知の不一致(本体と分身があまりに違うと、認知の混乱を招く)や、分身への過剰な依存(何でも分身に解決してもらおうとする)、過剰な期待(スーパーな分身を召喚すれば何でもやってもらえると思う)といったリスクがあるので注意は必要だ。
(本記事は、ジル・チャン著『「謙虚な人」の作戦帳』からの抜粋です)