マンション販売戸数業界1位に躍り出たが、規模の拡大よりも“在庫レス”で資金効率を重視する堅実路線を志向。安売りせず、用地買収から竣工までいかに早く売り切るかに勝負を懸ける。
新年度が始まった4月1日。マンション市場が息を吹き返す中、野村不動産の営業マンは、あわただしく顧客対応に追われていた。
だが、彼らが販売していたマンションはなんと来期分の物件。というのも、今期の販売予定戸数6200戸のうち、すでに約8割が売約済みだからだ(図1)。
しかも未契約の完成在庫は、50戸程度と、極めて低水準となっている(図2)。
「無理をして売り切っていないだけで、実質的に完成在庫はほぼゼロといっていい」(野村不動産)というから驚きだ。
用地買収から竣工まで1年半~2年ほどかかるマンション事業。それだけに好不況の波によって需要は大きく変動する。
だから、マンション価格に「定価」はなく、需要が盛り上がっている時期には値上げするし、閑古鳥が鳴くようなら、売り切るために何割も値下げする場合もある。
とはいえ、当然、デベロッパーは「いかに高く売るか」に力を注ぐ。「あと半年待ったら需要が盛り上がって、高値で売れるはずだ」と営業マンにストップをかけてまで、高値での売却にこだわるデベロッパーもあるほどだ。
しかし、需給の判断、それに基づく価格設定はことのほか、難しい。例えば、モデルルームで「即日完売御礼」と書かれたのぼりをよく見かけるが、あるデベロッパー営業マンは「決してほめられたことではない。なぜなら価格設定が安かったということだから」と話す。
そんな業界にあって、野村不動産では、即日完売が全面的に肯定されている。「1日も早く売り切って、資金を次の投資に回す」ことが最大の理由。加えて、モデルルームや営業マン、広告宣伝などにかかる経費を抑えることができるメリットも大きい。