速度違反のグレーゾーンを
どう考えたらよい?

 40km/h制限のところを42km/hや43km/hで検挙していたのでは、その事実を巡って争いが生じやすくなりますし、実際に一昔前のオービスやねずみ捕りの機器では一定の走行・測定条件下でプラス方向の速度誤差が出ることも指摘されていました。

 そんなわけで「法定速度の10km/h超過ならさすがに検挙の誤認のリスクは低くなるだろう」ということです。

 また、この規制の緩衝地帯を置くことで、「1km/hや2km/hの超過ぐらい大目に見てよ」という面倒臭い違反者とのふれあいもすっ飛ばすことができます。

 もちろん「制限速度+10km/h程度までは検挙が見送られるケースが多い」というのは、法律の条文上明確化されたルールではなく、事実上の運用、暗黙のルールに過ぎません。あくまでも形式的には「40km/h制限の道路を、それを超える速度で走ったら違反」であることは変わらないのです。

 では、2km/hや3km/hの速度超過でも反則行為として処理されるべきかというと、必ずしもそうは言えません。他の多くの事例で検挙されていない実情がありますし、行政罰にも比例原則(ある正当な政策目的を達成するための手段が目的との関係で必要最小限度のものでなければならないとする考え方)が適用されると理解されるからです。

 軽微な速度超過が形式的には反則行為に当たるとしても、それに対して行政罰を科す必要があるといえるかは問題となるでしょう。

実際の速度と法定速度を
合わせるべきでない理由

書影『世にもふしぎな法律図鑑』(日本経済新聞出版)『世にもふしぎな法律図鑑』(日本経済新聞出版)
中村真 著

 ですから「40km/h制限の道を50km/hで走っている車が多いのだから、40km/hの速度規制自体がおかしいのだ」というのは、逆にこのような規制の実態を見ない本末転倒の議論です。車両通行の実情に合わせて50km/h制限に変えた途端、車は60km/hで走りだすでしょう。

 40km/h制限は、車両の速度を50km/h以下に抑えるという役割を果たしているとみることもできます。

 昔、「赤信号、みんなで渡れば怖くない」という言葉が流行りましたが、結局それは向こう見ずな加害者を増やすだけです。こと交通法規に関しては、取引規制と異なり「実情」を過大視することがあってはいけません。

 安全の上ではまずルールありきで考えるべきなのです。