
社会問題となっている電動キックボードの危険運転や迷惑運転が野放しになっているのは、事業者が政府や自民党に働きかけ、新たな法律を制定させたことが原因と考えられる。この法改正がいつの間にか実現してしまった背景について、法律の専門家が解説する。※本稿は中村真『世にもふしぎな法律図鑑』(日本経済新聞出版)の一部を抜粋・編集したものです。
知らないうちに走り出していた
電動キックボードとその法律
学校では「法律の制定は、唯一の立法機関である国会において、主権者である国民の代表によって行われている」と習った記憶がありますが、社会の動きを見ていると、知らないうちに聞いたこともない法律が突然現れるような印象を受けることがあります。
もちろん、日本には2000件以上の法律がありますから、改正の経緯が大きく報道されるケースはともかく、それ以外のなじみの薄い法律の動向にまで関心を持てというのは無理な話です。
ところが、国民の生活に少なくない影響を与えるものであるのに、経緯がよくわからないまま法律の制定や改廃が進んでしまうということがしばしばあります。
最近、街中でライトグリーンの電動キックボード(以下「電動KB」)に乗った人を見かけることが増えました。ほんの数年前は見なかったこうした状況が生まれたのは、ある法改正が1つのきっかけになっています。
電動KB自体は2010年代半ば頃からありますが、我が国では「車両」として道路交通法の適用を受けてきました。原動機(電動式モーター)の定格出力の大きさごとに、原動機付自転車や普通自動二輪車などとして規制の対象となっていたのです。
定格出力が一番低い0.60キロワット以下でも原付ですから、当然、運転するためには免許が必要で、無免許運転には懲役刑を含む罰則もあります。