【社説】米国の新たな「鉄鋼のカーテン」Photo:Jeff Swensen/gettyimages

 ドナルド・トランプ米大統領が日本製鉄によるUSスチール買収を認める方針を示したことについて、最も評価できる点は、クリーブランド・クリフスによるUSスチール買収という政治的な動きを阻止したことだ。最も良くない点は、この買収が外国製鉄鋼に対する関税の壁をさらに高くし、米国企業の競争力を低下させる新たな機会となったことだ。

 トランプ氏は5月30日、自身がようやく日鉄による買収を承認する意向を示したことを手柄として訴えるために、ペンシルベニア州で集会を開いた。買収に反対していた全米鉄鋼労組(USW)のデービッド・マッコール会長には慰めの措置を与えた。それは鉄鋼関税を2倍の50%に引き上げることだった。

 トランプ大統領は、ピッツバーグのモンバレー工場への22億ドル(約3160億円)を含め、日鉄がUSスチールに計140億ドルの投資を約束していると誇らしげに語った。しかし日鉄による投資の約束の大半は、買収の承認をバイデン前米政権に求めていた段階で既に固まっていた。それでもジョー・バイデン前大統領は、マッコール氏とクリーブランド・クリフスのローレンソ・ゴンカルベス最高経営責任者(CEO)への配慮から、この取引を阻止した。

 マッコール氏とゴンカルベス氏は、価格引き上げにより有利になる鉄鋼カルテルの形成を望んでいる。日鉄は2023年、クリーブランド・クリフスとの買収合戦に競り勝った。USスチールを取得すれば、クリーブランド・クリフスは米国内で、高炉による製鉄、鉄鉱石埋蔵量、電磁鋼生産の100%、自動車に使用される鋼材の3分の2を支配することになっていた。