トランプ大統領Photo:Win McNamee/gettyimages

トランプ関税を支えるイデオロギー
お手本は毛沢東?失敗も踏襲する懸念

 トランプ政権は5月12日、世界を混乱させてきた関税政策で大きな譲歩を見せた。スイスのジュネーブで、ベッセント米財務長官と米通商代表部(USTR)のグリア代表が、中国から何立峰副首相が出席した貿易協議の共同声明で、アメリカは中国に対する関税率を145%から30%に、中国はアメリカに対する関税率を125%から10%にそれぞれ115%引き下げる(一部は暫定措置)と発表したのだ。

 水面下で米中関税交渉を求め続けてきたのは米国だったようだ。交渉が始まる前の8日、記者団にこの問題を問われたトランプ大統領は、「米中どちらが最初に電話をかけたか、そんなことはどうでもいい」といら立ったように答えた。

 今回の米中の関税大幅引き下げを受けて、日本や世界には、「トランプは関税戦争のリスクを思い知った」「今後は、矛を収めていくだろう」といった期待や楽観も広まるが、トランプ氏は、中国との合意後、さっそく「欧州の貿易赤字は、中国より悪い」とターゲットを変えて、「不公正な貿易」批判を相変わらず展開している。

 関税政策はトランプ政権の看板政策であり、今後、全面修正をするかどうかは見通せない。私たちはまだ安心できない。

 これまでトランプ政権は高関税政策を正当化するにあたって、国民は輸入品の値上がりで一時的に窮乏するかもしれないが、長期的には、製造業が保護され、米国への投資も促進されると強調してきた。

 こうしたトランプ政権の姿勢を指して、昨今、「MAGAマオイズム(毛沢東主義)」という言葉が使われる。「製造業を米国に取り戻す」との大号令のもと進められる政策が、中国の毛沢東時代に工業化などを目指して進められ悲惨な結果となった大躍進政策を彷彿させるからだ。

 それだけではない。社会の多様性を促進するDEI(多様性、公平性、包摂性)政策の撤廃や、政府の研究機関の組織合理化や予算削減、大学への助成縮小などの科学技術軽視や反知性主義も、毛沢東主席(当時)が進めた「文化大革命」を思わせる。

 大躍進政策や文化大革命はいずれも失敗し、その後遺症は長く中国社会に残った。

 トランプ氏の「MAGA(米国を再び偉大に)」「米国第一」も、国民の生活レベルの低下や優秀人材の流出などで、むしろ米国の衰退につながる可能性がある。