新事業開発、契約、マーケティング・顧客対応、システム構築で
生成AIは生産性をどう高めているのか
新規事業開発では、「生成AIの活用により、情報の探索・収集の範囲が海外を含めて圧倒的に拡大し、容易になっている」。また、「自社の技術情報を生成AIに学習させることで、社外で生まれる新技術との相性を判別したり、提携などで相乗効果が期待できる他社の技術を探索したりすることが可能になった。これによりビジネスチャンスを広げています」と根来教授は話す。
契約業務では、法律知識や過去事例に基づく契約書の作成が求められる。現場担当者が社内基準に照らし合わせて一からドラフトを作成する前工程の後、法務担当が内容・表現を精査する。この前工程の作業を、過去の契約書を全て生成AIに学習させることで、自社の実績や注意点を反映し、なおかつ形式が整ったドラフトを現場担当者が迅速に作成できるようになる。それを法務担当者が確認すれば、全体の作業効率は格段に上がる。
マーケティングでは、すでに生成AIの活用が進んでいる。まず、広告コピーの作成やデザイン制作など、広告代理店に委託していた業務の多くを内製する企業が出てきている。生成AIを使いこなしていけばいくほど、こうした広告業務の品質は高まり、内製率はアップしていく。
さらに、「自社のマーケティングデータを学習させれば、担当者がデータ分析を行わなくとも、価格を幾らに設定すればどれほど売れるかといったシミュレーションや、地域別にどのような販売施策が望ましいかなどの提案を生成AIがしてくれる」(根来教授)。これにより、マーケターはより戦略的な意思決定などの業務に集中することができる。
また、顧客対応(カスタマーサービス)では、 顧客からの問い合わせに対する自動回答や、カスタマーサポートの1次対応(FAQ作成・更新)に導入されている。営業現場では、個別の顧客に応じたメール文面や提案書のドラフト作成の支援に使われている。
情報システム構築では、「生成AIにコーディングさせることによって飛躍的に生産性が上がっています。ある程度コードを読める人が生成AIを活用することで、従来の5〜6倍に生産性を上げている企業がある」と根来教授は言う。
しかも、生成AIが書いたコードは人が試行錯誤して書いたコードよりもきれいで読みやすく、その後のチェックがしやすいというメリットもある。
ある医療関連企業では、内視鏡の画像解析を行うソフトウエア開発に生成AIを活用することで、頻繁に仕様変更を求められる場合でもスピーディーに開発できるようになっている。
こうした生成AIの活用では、日本企業は米国企業よりも向いていると根来教授は指摘する。「私の観察では、米国企業は優秀な一部の人材が、そうでない人を含めて全体を引っ張る傾向がある。一方、日本企業は、ほぼ全員が一定以上の優秀さでよく働く。つまりホワイトカラー人材の能力の平均値は日本の方が高いと思う。日本のビジネスパーソンが一斉に生成AIを学ぶようになれば、米国企業よりも早くビジネス現場に浸透し、労働生産性を高めることになるだろう」。
生成AI活用は個人の能力に依存することなく、誰もがすぐに成果を出せる。全員で平均的に取り組む日本の仕事のやり方は、個人の突出を抑制する弱点でもあったが、生成AIの普及によって、強みに転じる可能性が高い。