
日本企業のホワイトカラーの生産性は、生成AIの活用により、直近半年間で急激に向上している。中堅・中小企業の生産性向上は、初期コストやスイッチングコストが低いSaaSの活用で進む——。デジタル技術の活用によって生産性を伸ばす方法論を、名古屋商科大学ビジネススクールの根来龍之教授に聞いた。前編・後編の2回でお送りする。(聞き手/ダイヤモンド社 論説委員 大坪 亮、文・撮影/嶺 竜一)
日本企業全体の生産性が低いわけではない
元凶はホワイトカラーの「重複型の職務構造」
日本の2023年の時間当たり労働生産性は56.8ドルと、OECD(経済協力開発機構)加盟38カ国中29位と低位にあり、米国の6割程度しかない。この理由の一つに、「デジタル技術活用の遅れがある」といわれている。しかし、名古屋商科大学ビジネススクールの根来龍之教授はそれを否定する。「まず、日本企業全体の生産性が低いわけではありません。製造業、特に工場の現場の生産性は高い水準にある。生産性を低くしている理由の一つは、ホワイトカラーの『重複型の職務構造』にあるというのが私の意見です」。
日本企業のホワイトカラー業務は、米国企業のように「この仕事はこの人の担当」という明確な分担がなく、複数人で関わる。そのため業務の隙間で起きるミスや事故が少なくなるなどのメリットはあるが、結果として、一つの業務に関わる人数が増え、意思決定に時間がかかるなどのデメリットがある。この重複型の職務構造は、日本企業全般に定着しており、容易には変わらない。
では、日本企業がデジタル技術の活用で、生産性を向上させられる余地はあるのか。根来教授は、生成AIの進化による直近半年の変化に注目する。
「生成AIが誰にでも使える秀逸なツールになったのは24年秋。従来のITツールは仕事の一部を自動化する補助的な役割が中心でしたが、生成AIはホワイトカラーの業務の多くの工程に直接関与する。ここ半年の変化を見ると、生成AIの活用で日本企業のホワイトカラーの生産性は今後大きく改善する可能性があります」と根来教授は言う。
根来教授は、生成AIによって生産性が上がる当面の領域として「新規事業開発」「契約業務」「マーケティング・顧客対応」「情報システム構築」の四つを例示する。