
始業前の朝礼で、経営理念を従業員に唱和させる会社は未だに多い。SNSでは“唱和とかいってまるで昭和”などと揶揄される始末だ。実際、それは思考停止した「自己満足」経営に過ぎない面がある。では、本物の理念経営とは何か。iPhoneを生み出したAppleと、ユニクロやGUを展開するファーストリテイリングの事例を通じて、考えてみよう。(ブレインマークス代表取締役 安東邦彦)
「経営理念=唱和するもの」という大誤解
今でも朝礼で経営理念などを唱和する会社は多いです。しかし、それはハッキリ言って「自己満足」経営だと思います。
かつて、松下幸之助さんや稲盛和夫さんが会社の朝礼で、社長と社員が理念を読み上げる姿が映像として残っており、日本中に広まりました。あの映像のインパクトが強すぎたのか、あるいは取り入れやすかったのか、多くの会社が「理念=唱和するもの」と誤解しています。
また、有象無象の経営コンサルタントにとって、「朝礼で理念を唱えれば、社員が生き生きと働き、売り上げも伸びます」などと、売り込みやすかったのだと思います。だから、朝礼で理念を唱和する仕組みが良しとされる、変なすり込みが日本中に浸透してしまったのではないでしょうか。
私が20年ほど前に勤めていたIT系ベンチャー企業も、朝礼で「自利利他」という経営理念を毎朝唱和していました。これは仏教由来の言葉で、「自らの悟りのために修行し、他の人の救済のために尽くす」という意味ですが、その会社では、「自分の利益より他人の利益を優先することで社会に貢献する」という意味で使われていました。
一方で、現場では売り上げの追求が最優先でした。私は営業のトップとして、他人の利益には全く目を向けることなく、10億円という高い売り上げ目標を追い、ベンチャーキャピタルや証券会社に成果を示すことに日々奔走していたのです。
だからこそ、毎朝の唱和はむしろ逆効果でした。「自利利他」と唱えるのとは裏腹に、自分の成績や会社の利益を最優先する現実。社員の多くが、「うちの会社、言っていることとやっていることがまるで違う…」と思いながら唱和していたのです。もはや、理念と現実のギャップを社員に日々すり込んでいく、「逆すり込み」でした。こんなに恐ろしいことはありません。