【お米はすごい】アジアの人口が「爆発的に増えた」納得の理由
「経済とは、土地と資源の奪い合いである」
ロシアによるウクライナ侵攻、台湾有事、そしてトランプ大統領再選。激動する世界情勢を生き抜くヒントは「地理」にあります。地理とは、地形や気候といった自然環境を学ぶだけの学問ではありません。農業や工業、貿易、流通、人口、宗教、言語にいたるまで、現代世界の「ありとあらゆる分野」を学ぶ学問なのです。
本連載は、「地理」というレンズを通して、世界の「今」と「未来」を解説するものです。経済ニュースや国際情勢の理解が深まり、現代社会を読み解く基礎教養も身につきます。著者は代々木ゼミナールの地理講師の宮路秀作氏。「東大地理」「共通テスト地理探究」など、代ゼミで開講されるすべての地理講座を担当する「代ゼミの地理の顔」。近刊『経済は地理から学べ!【全面改訂版】』の著者でもある。

【お米はすごい】アジアの人口が「爆発的に増えた」納得の理由Photo: Adobe Stock

人口大国の条件とは?

 米、小麦、茶、綿花、ジャガイモの生産統計を見ると、1位中国、2位インドです。

 私はこれを授業中に、「米小麦 お茶に綿花に ジャガ~イモ」と五七五のリズムで受験生に教えていますが、頭の中に案外残るようです。

 米や小麦、ジャガイモといった農作物生産が多い国は、中国やインド、アメリカ合衆国、インドネシアなどです。これらの国には人口大国という共通点があります。

 米の生産は、1位中国、2位インド、3位バングラデシュ、4位インドネシア、5位ベトナム、6位タイ、7位ミャンマー、8位フィリピン。

 小麦の生産は、1位中国、2位インド、3位ロシア、4位アメリカ合衆国、5位オーストラリア、6位フランス、7位カナダ、8位パキスタン。

 ジャガイモの生産は、1位中国、2位インド、3位ウクライナ、4位ロシア、5位アメリカ合衆国、6位ドイツ、7位バングラデシュ、8位フランス( いずれも2022年)。

なぜアジアで米の生産が盛んなのか?

 モンスーンアジア(モンスーンの影響を受けて夏季に多雨となる東・東南・南アジア)での米の生産量は世界シェアの9割を占めます。そしてその地域の生活人口は、世界の55%といわれています。

 モンスーンアジアは人口支持力が高い地域であると考えられますが、これは米の生産が盛んであることが背景です。人口支持力とは、ある地域において居住する人々を扶養できる力のことをいいます。

 他地域との交流が一切見られない地域であれば、人口支持力は「食料生産量」や「獲得経済による収穫」による食料供給量で決まります。また他地域との交流を持つことで、食料供給量に輸入量が加わり、その分、人口支持力が向上します。

 水田は大半が水を張った状態であるため、ほとんど連作障害(さまざまな要因で農作物が生育不良となっていくこと。具体的には「過剰な灌漑によって、土壌中の塩分が集積して起こる塩害」「病原体が土壌中で増加することで起こる土壌病害」など)が起こりません。そのため米は単位面積当たりの生産量が極めて高い穀物です。

 またアジアの国々は、基本的に国土面積が大きい国が多く、1カ国当たりの人口が多くなりやすい「土台」があります。ヨーロッパは、連作障害が起こりやすい畑作を中心としているため、人口支持力は高くありません。連作障害は、主に土壌養分の不足から起こります。水田は安定した土壌環境を維持することができますが、畑作にはそれが難しいのです。

(本原稿は『経済は地理から学べ!【全面改訂版】』を一部抜粋・編集したものです)