戦争も、教育も、すべてが塗り替えられた…朝ドラ『あんぱん』折り返し地点で見えたこと【第61回レビュー】

軍国主義教育からの転換
悩んだ末、のぶの決断は?

 学校では連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)の指示により軍国主義教育からの転換が図られ、教師が子どもたちに教科書を墨で塗ることを指示している。

 これぞ正義は逆転する。画面が一瞬墨で真っ黒になる。この瞬間が折り返しと考えてもいいかもしれない。すべての価値が焼け野原のようにリセットされて新しい時代が始まったのだ。それは決して喜ばしいことには見えない。そもそもリセットなのか上書きなのかも判然としない。

 のぶは学校を休んで次郎のお見舞いに勤しむ。

 病室の廊下で空っぽの花瓶を抱えて佇むのぶ。空っぽの花瓶は虚無の心にも見える。

 そこに美しい水仙の花を飾るのぶ。病室は静かで穏やかな空気が流れて見える。柔らかな光が差し込んでいる。

 でも次郎は悪くなる一方のようだ。薬が足りず満足な治療を受けられない。

 朝田家では家族がのぶを心配している。釜次(吉田鋼太郎)は、のぶは「愛国の鑑」だから大変であろうとつぶやく。つまり最も軍国主義を貫いてきた側だからいまや風当たりが強いだろうということだ。

 ある日、次郎の好物・芋の煮っころがしを作って病院に持ってくるのぶ。煮物のてりが美しい。

 実はのぶは学校を辞めていた。それを次郎に明かす。

「やっぱりそうか」

 次郎は洞察力があるが、のぶが言うまで聞かない配慮がある。さらに(病気の)自分のせいで(辞めたのか)と気遣う。

 そうではなく、子どもに間違ったことを教えていたことで教壇に立つ資格がないと思ったとのぶは吐露する。次郎は「君らしいにゃ」とのぶの気持ちを受け止める。自分も戦争が悲惨なことになっていくのを見ながら何もできなかったと。この人はいつもそうで、のぶのことを受け入れてくれる。

 子どもたちを巻き添えにしたのぶは責任を感じて苦しんでいた。

 のぶが愛国精神を子どもたちに植え付けてきたことで、子どもたちが何を信じていいのかわからなくさせたわけで、ひいては親を亡くすことにもつながっているとのぶは自覚するのだ。

 のぶひとりが「愛国の鑑」になることに疑問を感じたとしても、事態は変わらなかったかもしれない。だが、その自分ひとりでは体制に影響はないと思うことに問題がある。

 ひとりひとりの意見が合わされば大きな声になる。流されてしまってはいけない。のぶを見ているとそういう気持ちになる。昨夜の都議選の結果を見ていると、ますますそんな気がしませんか。