社会的な「成功レール」の崩壊、どんどん不確実になる未来、SNSにあふれる他人の「キラキラ」…。そんな中で、自分の「やりたいこと」がわからず戸惑う人が、世代を問わず増えています。本連載は、『「やりたいこと」はなくてもいい。』(ダイヤモンド社刊)の著者・しずかみちこさんが、やりたいことを無理に探さなくても、日々が充実し、迷いがなくなり、自分らしい「道」が自然に見えてくる方法を、本書から編集・抜粋して紹介します。

「やりたいことがない人はどうすれば?」→25年迷走してわかった、たったひとつの答えPhoto: Adobe Stock

悩みの解決策は「やりたいこと」を探すことだと思っていた

この「やりたいことがない・わからない」という悩みの解決策として提示されるのは、ほとんどの場合「やりたいことを探す方法」です。

職業適性検査を受けたり、興味のあることリストを作ったり、過去の経験を振り返ってキャリアを棚卸ししてみたり……。しかし、この方法で「やりたいこと」は見つかるでしょうか? 

実際に、いろいろな方法を試してみたけれど、どれもピンとこなくて、この記事を読んでくださっている方もいるのではないでしょうか?

実は「やりたいことがない」ほうが人生がうまくいくタイプもいる

私は、この方法は合う人と合わない人がいると考えています。人には、やりたいことがあったほうがいい人と、ないほうがいい人の2つのタイプがいるのです。

そして、やりたいことがないと悩んでいる人の多くは、やりたいことがなくてもいい、むしろ、やりたいことがないほうが人生がうまくいくタイプの人です。このタイプの人は無理にやりたいことを探しても見つからなかったり、ピンとこなかったり、見つけたと思ってもすぐに飽きたりします。

私がこのことに気づいたのは、自分自身がやりたいことを探して紆余曲折してきた経験と、ストレングスコーチとして多くの方の悩みと強みに向き合ってきた学びからです。

私自身、今は天職とも思えるストレングスコーチという仕事についていますが、これまで、かなり行き当たりばったりの人生を歩んできました。

それこそ20代の頃から「やりたいことを探さなければ!」という強迫観念から「将来の目標を考えよう」「この先10年のキャリアプランを考えよう」「30年の人生計画を立てよう」「やりたいことを100個書き出そう」といったやりたいこと探しメソッドに一通り挑戦しては挫折し、目標もキャリアプランも人生計画もやりたいことも、何も見つからないまま、40代後半を迎えたのです。

「やりたいこと」を求めて7回転職

少し長くなって恐縮ですが、私がいかに右往左往してきたかを知っていただくために過去の職歴を紹介いたします。

・23歳~24歳:就職氷河期に、手当たり次第に履歴書を送り、唯一採用された地方の小さなメーカーに営業職として入社。しかし、社長が「手書きのほうが速いからパソコンの使用禁止」と言いだし、ここに長居してはいけないと思い、2年で退職。

・25歳~26歳:次を決めずに辞めたので、暇になる。ある日「あなたも3日で簿記3級が取れる!」という講座のチラシが郵便受けに入っていて、暇なので受講したところ面白く、このまま税理士を目指そう!と調子に乗る。1年ほど税理士講座に通い、1科目は合格するが、あまりに勉強が辛くて、あっさり税理士を諦める。税理士試験の勉強と並行して派遣社員として働いていたので、派遣会社の正社員になろうと考え、大手の派遣会社全てに履歴書を送り、唯一採用された1社に入社。

・27歳~35歳:大手派遣会社に、ジョブコーディネーター(派遣で働きたい人に仕事を紹介する役割)として入社するも、同じ部署の人たちと馴染めずに浮きまくる。経理の同僚に愚痴ったところ、「税理士の勉強をしていたなら、経理の社内公募に応募してみたら?」とのアドバイスを受け、応募して経理に異動。その後も経理として働くが、後輩に昇進を追い越されるなど、このままでいいのか悩み始めた頃にリーマン・ショックが起こり、早期退職者募集の波に乗り退職。

・36歳~39歳:社員数名のベンチャー企業に転職。経理や人事といった管理系の仕事を一手に引き受ける。会社は急成長し、仕事も面白くやりがいもあったが、夫が病気で余命半年と診断されたり(結局、誤診で今も元気)、故郷が地震と津波の被害にあったりする。そんな中、毎日終電帰りの自分の生き方に疑問が生まれ、退職。

・40歳~41歳:仕事を辞めたらのんびりする予定が、ある飲み会で会った人に「産休に入る経理の社員の代わりがいない」と相談され、その期間だけの代理という約束で働く。ところが、その会社がブラック企業だった! 期間限定という約束も果たされず1年半もいて心身ともにボロボロになって、なんとか逃げ出す。

・42歳~43歳:外注業の会社に経理で入社。人間関係も平和で、快適な環境に幸せを感じていたが、社員が横領している痕跡を発見。全容を明らかにしたい私と、隠蔽したい上司とで激しい対立となり、身の危険を感じる事態になったので、退職。

・44歳~46歳:不動産関連の会社に新規事業立ち上げの経理として入社。人も雰囲気も平和で充実して働いていたが、たまたま受けたクリフトンストレングスの講座をきっかけに始めたセッションが楽しくなり、こちらを本業にすべく、退職。

・47歳~ストレングスコーチとして独立し、今に至る。

いかがでしょうか。「やりたいこと」がしっかりある人であれば、こんなに行き当たりばったりの職歴を積み重ねることはしないでしょう。そもそも会社員として長く取り組んだのは経理なのに、経理とは無関係の分野で独立しているあたり、計画性のカケラもありません。もともと独立志向すらなく、まさか自分が会社員を辞めて独立するとは思ってもいませんでした。

私が「やりたいこと探し」の呪縛からついに解き放たれた一番の理由、それは、人それぞれがもつ「強み」という概念に気づいたことからでした。

*本記事は、しずかみちこ著『「やりたいこと」はなくてもいい。 目標がなくても人生に迷わなくなる4つのステップ』(ダイヤモンド社刊)から抜粋・編集したものです。