麹町経済研究所のちょっと気の弱いヒラ研究員「末席(ませき)」が、上司や所長に叱咤激励されながらも、経済の現状や経済学について解き明かしていく連載小説。前3回、特別編として、“いまさら聞けない”アベノミクスについて、末席が精魂こめて解説してきましたが、今回からは、経済モデルの必要性について考えた「じつは、経済学は常識はずれのサイエンス!?」に続き、自由市場のモデルとその恩寵につきケンジと共に考えます。(佐々木一寿)

「モデルって、ただの単純化のようでいて、じつは奥深いものだったんですね」

 甥のケンジはモデル(理念型)を使った考察というものに触れたのは初めてで、しきりに感心している。

「モデルっていうのは、本当に奥深いものなんだよ。現実社会というのは、ただそのまま眺めるだけでは何が因果関係となっているのかが非常にわかりにくい。というか特定するのには途方もない検証が必要とされるか、ほぼ絶望的だったりする。しかし、モデルを上手に作って因果関係を説明できれば、そのモデルのなかでは、原因と結果のメカニズムは明白に関連付けできる」

 叔父の嶋野は、木製の飛行機のモデルをいじりながら続ける。

「あとは、それを現実のデータに当てはめて、だいたいそれっぽいのか、モデルに反する例が出てくるのかを検証していく。だいたいそれっぽいということがずっと続けば、そのモデルはいい線をいっているかもしれない(≒真実かもしれない)し、反例が出てくるようであれば、モデルをもう一度練り直すか、根本的にそのモデルを捨てなければならないかもしれない」*1

*1 cf.『論理の方法-社会科学のためのモデル』(小室直樹著)

 末席もフォローをする。

「モデルビルディングは、物理学や医学などで先行して使われだしました。ニュートン力学では、物体は点(質点)で体積がなく、また摩擦などは捨象する、と前提を置いて物体の運動の法則を説明したわけです。一見、乱暴ですよね、物体には体積がなく、空気抵抗といった摩擦を考えないなんて、逆になに考えてんだか!と思われたと思います」*2

 ちょっとスベったかな、摩擦がないだけに、などと末席は余計なことを考えつつ続ける。