「結果を出す人」は、何を考えているのか? それを明らかにしたのが、プルデンシャル生命で伝説的な成績を残したビジネスアスリート・金沢景敏さんの最新刊『超☆アスリート思考』です。同書で金沢さんは、五輪柔道3連覇・野村忠宏さん、女子テニス元世界ランキング最高4位・伊達公子さん、元プロ野球選手・古田敦也さん、元女子バドミントン日本代表・潮田玲子さんほか多数のレジェンドアスリートへの取材を通して、パフォーマンスを最大化して、結果を出し続ける人に共通する「思考法」を抽出。「自分の弱さを認める」「前向きに内省する」「コントロールできないことは考えない」「やる気に頼らない」など、ビジネスパーソンもすぐに取り入れることができるように、噛み砕いて解説をしています。本連載では、同書を抜粋しながら、そのエッセンスをお伝えしてまいります。

トップアスリートは「自己対話」を大切にする
自分との対話を大切にする――。
これは、トップアスリートに共通する特徴です。
トップアスリートといえども「普通の人間」ですから、練習をサボりたい自分もいれば、試合から逃げ出したい自分もいれば、試合に負けて落ち込む自分もいます。そんな「弱い自分」と対話を重ねることで、よりよい方向へ自分を導いていく。そんな「自己対話力」のある人だけが、トップアスリートへと成長していくのです。
柔道の野村忠宏さんが、まさにそうです。
野村さんは、ご自分のことを次のように公言されています。
「僕は一見、自信に満ち溢れているように見えるそうですが、実はビビリなんです。要するに怖がり。試合で負けるのも怖いし、試合で相手と組み合うのも怖い。本来の性格は、めちゃくちゃ臆病なんです」
意外ですよね?
試合場での気合いの入りまくった野村さんの印象しかありませんでしたから、僕も初めてこの話を聞いたときはずいぶんと驚きました。
でも、野村さんご本人がこのように公言できるほどに、「ビビっている自分」「怖がっている自分」「臆病になっている自分」を肯定できていることが、野村さんの「強み」なのだと思います。
なぜなら、「弱い自分」が存在することを受け入れているからこそ、その「弱い自分」との間で真摯な自己対話が成立するからです。
「弱い自分」と対話を重ねて、よりよい方向へ自分を導く
実際、野村さんは、「試合後半でポイントをリードしていて、逃げ切るために守りに入ると恐怖感が増す」「相手が組み合ってくれないときや、体力が尽きてきたときなどに、ネガティブな表情が顔に出てしまい、そこを相手に突かれて負けてしまう」など、「弱い自分」が出てくるシチュエーションを、驚くほど高い解像度で把握されています。
そして、「試合では守りに入らず、最後まで前に出て攻撃をし続ける」「どんな状況でもネガティブな表情を顔に出さない」など、「自分の弱さ」を克服するべく日々練習に取り組んでおられました。だからこそ、あれだけ強かったのです。
これは、野村さんが長年にわたって、「弱い自分」に「どんなときにビビってしまう?」「どうしたら、怖くなくなる?」などと問いかけ、その声に真摯に耳を傾けてきたからこそできたことなのです。
「ブザマな自分」を許せるか?
ところが、これが難しい。
なぜなら、「カッコ悪い自分」「ブザマな自分」を認めることに、普通の人間は強い抵抗を覚えるからです。
想像してみてください。よいアイデアがあったにもかかわらず、上司の意見と異なる内容だったために、会議でそのアイデアを発表する勇気を出すことができなかったとしましょう。そのとき、「上司にビビッてしまって、発表できなかった」と正直に認めることができる人は何人いるでしょうか?
なんとでも言い訳はできます。
「あそこで上司の意見に水をさすと、会議の空気を壊してしまう」「大人の対応をしたまでだ」……。
このような言い訳をすれば、「ビビッた自分」「カッコ悪い自分」「ブザマな自分」を直視するのを避けることができます。みなさんには、そうやって「自分」を取り繕ってしまったことはありませんか? 恥ずかしながら、僕にはあります。
だけど、これこそ「自己否定」です。
どんなに取り繕ったところで、上司にビビッてしまったのは揺るぎない事実。「ビビッた自分」「カッコ悪い自分」「ブザマな自分」は、確実に自分の一部なのです。その自分の一部を、まるで存在しないかのように扱うのは、自分を否定していることにほかなりません。
「あのとき、俺はビビッてしまった」「そんな自分はカッコ悪い」などと認識すること自体は、決して「自己否定」ではありません。「自己否定」とは、そんな「弱い自分」が、自分のなかに存在するのを認めない(許さない)ことなのです。
そして、「自己否定」をしている限り、「自己対話」は不可能です。
否定している自分との「自己対話」など、単なる語義矛盾。そんなものが、成立するはずがありません。