子どもの頃に「おとなしい」と言われて嫌な思いをした方は多いのではないでしょうか。言っているほうは悪気はなくても、「おとなしい」という言葉にはどこか否定的な響きがあります。「内向的」という意味合いが込められている場合が多いからです。「外向的」な性格で悩んでいる人には会ったことがありませんが、「内向的」であることはよくないことと世間では受け止められてきました。しかし「内向的」な性格にも長所はたくさんあるのです。世界の大富豪イーロン・マスク、「ハリー・ポッター」シリーズの生みの親JK・ローリング、アップル共同創業者のスティーブ・ジョブズ、天才的科学者のアルベルト・アインシュタイン、世界的ミュージシャンのエド・シーラン、エイブラハム・リンカーン大統領、映画監督のスティーブン・スピルバーグなど、世界の偉人とも言われる多くの成功者は、子どもの頃に内向的な性格でした。一人で深く思考を重ねるのが好きでした。だからいじめの対象になることも少なくありませんでした。しかし彼らは、ある時点で自分を成長させ、自分の良さを保ったまま、世に出ることができたのです。本連載では、最新の脳科学研究から明らかになった、「おとなしさの真実」とさまざまな「性格をリセットして成長させる方法」をお伝えします。

【脳科学の新常識】トップアスリートの10人に9人は内向型?Photo: Adobe Stock

自分と向き合う能力は、内向型のなせる業

 ビジネスの世界だけではなく、スポーツの世界でもこの内向型や両向型という性格が注目されています。

 世界で活躍する一流のスポーツ選手は、とても快活でエネルギッシュ、カリスマ性があって、どう見ても外向的に見えるかもしれません。しかし、自身もオリンピックの金メダリストであるデビッド・へメリーがスポーツ選手に行ったリサーチでは、こんな結果が出たそうです。

「トップアスリートの89%が内向的だった」

 しかも、自分が外向的だという選手は6%しかおらず、残りの5%は中間だと答えたそうです。

 これを聞いたとき、最初はイメージとは異なっていて、とても驚きました。

 しかし、よく考えてみると、スポーツは自己管理や練習が大切ですし、スキルアップや駆け引きなどは自分自身の心との闘いだったりします。テニスやゴルフ、水泳、陸上など個人競技は特にそのような性質が強くなります。プロのサッカー選手をサポートしたこともありますが、落ち着いた人が多い印象がありました。

 フロリダ州立大学の研究でも、一流のバイオリンのトッププレーヤーの90%が最も大切にしていることが、「一人での練習」と答えたそうです。自分と向き合う能力は、内向型がなせる業だと言えるでしょう。

 また、メジャーリーグで大活躍している大谷翔平選手が、高校1年生のときから「マンダラチャート」と呼ばれる目標達成シートを作成していたという話は有名です。

 シートの中には「雰囲気に流されない」「あいさつ」「ゴミ拾い」など、一見、野球とは関係なさそうな目標も事細かに書き込まれていたそうです。ここまで細かい心の習慣を書くことができるのは、人がどういったときに心が動き、自分のパフォーマンスにつながるのかを分析できる典型的な内向型の才能があったと考えられます。

 たまたま、私の知り合いが大谷選手の保険を担当していますが、日本でプレーしていた時代の彼の様子を見ていて、どんなに大活躍しても派手な生活をせず、堅実な生活をしているという話を聞きました。外向性が高い人は派手な生活をする傾向がありますが、その逆の賢実な生活は内向性が高い人の特徴だったりします。

 彼には生まれつき野球の才能があったのだ、ととらえることもできます。ですが、自分を見つめ自分の弱点を把握したり、改善点と忍耐強く向き合う「内向的な性格」があったからこそ、「超一流の域」にまで達したのかもしれません。

※本記事は『「おとなしい人」の完全成功マニュアル 内向型の強みを活かして人生を切り拓く方法』西剛志(ダイヤモンド社)より抜粋したものです。