2025年も折り返し、トランプ関税や世界的な物価高、少子高齢化、移民問題といったニュースが次々と世間を騒がせる一方、新聞やテレビでは見えにくい“真のリスク”が見落とされています。そんななか、「ポジショントークなし」の冷静かつ分かりやすい経済解説をYouTubeで発信し、ビジネスパーソンを中心に人気を博しているのが、元機関投資家のモハP氏です。
「みんなが信じる情報に価値はない」「すべての情報を疑え」という彼の機関投資家思考は、「情報」が生成され続けるAI時代に必須のスキル。同氏初の著書『日本人だけが知らない世界経済の真実』の一部を抜粋・構成し、既存メディアが報じない世界の動きを解き明かします。

世界経済の真実Photo: Adobe Stock

GDPの増加で国民生活はよくなるか

 2024年7月、世界銀行は2023年に世界の移民の数が3億人を超えた可能性があると伝えました。また、2024年5月に世界移住機関が発表した年次レポートによれば、2023年時点の移民の数は2億8100万人にのぼり、2000年の1億7300万人から大幅に増加しています。

 世界各地で増え続ける移民が様々な問題を引き起こし、その結果として政治的な対立が深まっていることは言うまでもありません。

 一方、経済面に目を向けたとき、「移民は経済にとってプラスだ」という考え方は依然として多く存在しているように思われます。私はこれまで、大手金融機関のエコノミストを含む多くの経済専門家に意見を尋ねてきましたが、現在でも多くの方が「移民は経済にとってプラスだ」と答えています。ただし、私の結論は少し異なります。

 まず、「移民が経済にとってプラスである」という主張をする人の多くは、GDPへの影響を根拠に挙げます。エコノミストとしては、GDPが増えているのに「経済にとって良くない」とは言いづらい面があるのかもしれません。

 実際、移民が入ってくれば、彼ら自身も生活のために経済活動を行うので需要が生まれ、労働供給が増え、GDPはプラスになります。

 しかし、GDPが増えればそれで良いのかというと、そう単純ではありません。私はこれを「円安は本当に良いことなのか」という議論に近いと思っています。数字上はプラスでも、恩恵を受ける人と受けない人、あるいはむしろマイナスの影響を被る人が存在します。そのバランスがあまりにも偏っていれば、決して良いこととは言えないというのが私の見解です。

 円安を例に挙げると、恩恵を受けるのは大企業や株主、一部の資本家など限られた層である一方、輸入物価の高騰で国民の大多数は損をする構図があります。移民の問題にも似たところがあると考えています。移民を受け入れることで、どの業界がどの程度プラスになるかを正確に把握するのは難しいですが、企業オーナーや移民が多く住む地域の小売店など、一部の人たちだけが恩恵を強く実感するというケースは多いでしょう。

 もちろん、何をするにしてもプラスになる人とマイナスになる人は出てきますし、すべての人に公平な利益をもたらすことは簡単ではありません。

 ただ、そのバランスが大きく崩れてしまうと、社会全体にとっても好ましい結果にはつながりにくいと考えます。GDPという金額ベースの指標だけを見ても、その実態はわかりません。

 移民に関して言えば、経済的メリットを実感できる層がごく一部に限られる一方で、経済面以外の影響も含めてマイナス面を強く感じる人が多いのではないか、というのが私の考え方です。