「人種・民族に関する問題は根深い…」。コロナ禍で起こった人種差別反対デモを見てそう感じた人が多かっただろう。差別や戦争、政治、経済など、実は世界で起こっている問題の“根っこ”には民族問題があることが多い。芸術や文化にも“民族”を扱ったものは非常に多く、もはやビジネスパーソンの必須教養と言ってもいいだろう。本連載では、世界96カ国で学んだ元外交官・山中俊之氏による著書、『ビジネスエリートの必須教養 「世界の民族」超入門』(ダイヤモンド社)から、多様性・SDGsの時代の世界基準の教養をお伝えしていく。
移民と難民は大きく違う概念
移民・難民問題について、両者の定義をはっきりさせておきましょう。
移民はあくまでも経済的な要因でその国に渡ってくる人。経済的な要因も、「自国にまったく産業がない」という深刻な貧困から、「新たなビジネスチャンスを外国に求める」というものまでいろいろあります。
移民にビザが降りるかどうかは、どの国にあってもケースバイケースです。国策として積極的に移民を誘致する国もあります。
たとえば、サウジアラビアなど湾岸諸国と呼ばれる国々は、労働力不足を補う観点から積極的に移民を受け入れてきました。
一方で難民は、「人種、宗教、国籍、特定の社会的集団の構成員であることや政治的意見を理由に、迫害を受けるおそれがある」人たちのうち、「国籍がある国の外にいる」人です。
自国の保護を受けられなかったり、逆に「この国に保護されたら、逮捕されたり処刑されたりしてしまう!」などの理由で保護を望まなかったりします。
「難民だと認められた人については、保護して安全を確保する義務がある」という難民条約には、世界140以上の国・地域が加入しています。
世界全体で難民の数は増え続けており、2019年のデータでは約8000万人、史上最高を記録しています。
テロや内戦・紛争が増えているためで、ポストコロナ時代には、さらに難民が増加する可能性があります。
また、シリアやリビアなど産業が壊滅状態にある国では、政治的理由に経済的理由が加わってヨーロッパを目指す難民がいます。
しかし、すべての人が受け入れられるわけではありません。行き場のない人が暮らす難民キャンプも、非常に大きな問題です。
難民条約には日本も加入していますが、難民申請がなかなか認められないことが問題視されています。
政府の主張は、「難民申請のなかには、就労目的の偽装難民が多すぎるので全部受け入れることはできない」というもの。しかし、日本の難民認定率は1・2%(2020年)と、G7と韓国をあわせた8カ国中最低です。
「あまりにも受け入れ数が少ない」と国際社会で非難されるのも当然という見方もあり、私も改善すべきだと考えています。