移民大国カナダの実情
このように経済面以外にも目を向けると、文化の異なる移民を大量に受け入れることで生じる問題は数多く存在します。世界の先進国はどこも少子高齢化による社会保障制度の維持が難しくなっている中で、移民がそうした制度を利用するケースに対して不満が高まる例も見られます。
たとえば欧州では、イスラム教の女性が顔を覆うブルカを着用しなければならず、就労が難しいことを理由に生活保護を受給し、それに対して国民の怒りが爆発したという事例もあります。
もしこれを許容すると、「イスラム教の女性移民は皆生活保護を受けるのではないか」という懸念が生じ、「一体誰のための社会保障制度なのか」という議論に発展しかねないわけです。
移民大国であるカナダの人口は、その大部分を移民が占めており、親やさらに前の世代が移民として渡ってきた人々を含めると、先祖代々カナダに住んでいる人を探す方が難しいほどです。それでも近年、「移民が多すぎるのではないか」という議論がカナダ国内で起こっています。
理由としては、住宅や医療機関など、生活に必要なインフラが追いついていないことが挙げられ、より現実的なペースで移民を受け入れるべきだという声が多いようです。
カナダですらこうした状況にあることから、世界的に移民が増えすぎてマイナスの影響が拡大しているのではないか、と私は見ています。
移民でGDPが増えたとしても
では、移民は経済的にプラスなのかというと、これは円安が良いのか悪いのかという議論とよく似ています。恩恵を受ける人がいる一方で、そうでない人もいるからです。
移民の場合、恩恵を受ける層は限られがちで、多くの人々は経済的な側面だけでなく文化的な面も含めて、マイナスの影響を大きく感じているのではないかというのが私の認識です。
GDPだけを見て「良い」「悪い」を判断するのは、あまりに浅い議論だと感じています。たとえGDPの数字が上向いても、それが誰にどれほど恩恵をもたらしているのかまではわからないからです。
たとえばYouTuberをランキングする際によく使われる「チャンネル登録者数」は一つの有力な指標であることは確かですが、数字を伸ばすことだけを目的に、他のYouTuberとのコラボを乱発して登録者数を増やしても、実際に動画を観てくれる人が少なければ意味がありません。
これと同じように、GDPという指標だけでは経済の実態を十分に捉えられず、表面的な数字が増えても必ずしも本質的なプラスを生むとは限らないと私は考えています。
さて、移民が増えている要因としては、戦争やクーデターなど政治的混乱の増加もありますが、富の格差拡大も大きく影響しているでしょう。
国連のレポートでも、海外移住には相応のコストがかかるため、移住者にとって大きな負担となるものの、それでも移住を決断する背景には所得格差があると指摘されています。
移住すればより多くの収入を得られ、豊かな暮らしが可能になると期待できるからです。こうした所得格差が拡大する社会構造の中では、「もっと稼ぎたい」「もっと豊かになりたい」という移住ニーズがなかなか衰えないのは当然といえます。
その結果、多くの国で移民が増加しすぎて、デメリットが目立ち始めているのではないでしょうか。富の格差が広がる社会では、今後も多くの国が移民問題に取り組まざるを得ません。
移民の受け入れを完全に止めることは難しい一方で、どのようなペースで、どのような形で受け入れるかが、今後の世界各国にとって大きな課題となるでしょう。
(本稿は『日本人だけが知らない世界経済の真実』を一部抜粋、構成したものです)
元機関投資家/ファンドマネージャー
資産運用会社等で20年以上、債券・為替・株式・デリバティブ等の資産運用関連業務に携わったのち独立。世界の経済ニュースを伝える「【世界経済情報】モハPチャンネル」を2021年からYouTubeで配信し始め、金融知識がなくてもサクッとわかりやすい解説が好評を博す。2025年5月現在、登録者数は22万人超、公開動画は1000本超、総視聴数7000万回を突破。「速さ・中立性・わかりやすさ」を信条に、世界各国のマクロ経済・金融政策をリアルタイムで分析。難解な指標を噛み砕く語り口と、元機関投資家ならではの視点が個人投資家・経営者・政策関係者から高く支持される。本書が初の著書となる。
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