「経済×地理」で、ニュースの“本質”が見えてくる!仕事に効く「教養としての地理」
地理とは、農業や工業、貿易、交通、人口、宗教、言語にいたるまで、現代世界の「ありとあらゆる分野」を学ぶ学問です。
地理なくして、経済を語ることはできません。
最新刊『経済は地理から学べ!』の著者、宮路秀作氏に語ってもらいます。
今、アメリカーメキシコ国境における「壁」建設問題が、世間を騒がせています。
歴史をひもとくと、アメリカは“移民”と深くかかわっていることがわかります。アイルランドで起こったジャガイモ飢饉に目を向けてみましょう。
ジャガイモ飢饉とは?
1845年、アイルランドでジャガイモの不作による大飢饉が起こりました。アイルランドで栽培されていたジャガイモに疫病が発生したのです。
アイルランドは北海道より少し小さい程度の面積しかありません。鉱産資源がほとんど産出されず、鉱工業も発達しませんでした。
そのため、当時のアイルランドは実質的にイギリスへの食料供給地となっていたのです。肥沃で土地生産性の高い農地は、牧草地や穀物用として利用されていましたが、アイルランドの農民に対しては地力が低い痩せ地が与えられていました。
そこでジャガイモです。イモ類は、比較的地力が低い痩せ地でも生産が可能です。さらに地面の中で育つこともあって、鳥についばまれる心配もありませんから、安定して栽培ができます。
地力の低い地域に住む人々にとって、ジャガイモは命をつなぐ作物だったのです。
飢饉により約150万人が死亡。
そして100万人がアメリカへ
ジャガイモの疫病に加え、当時の税制が飢饉の被害を拡大させました。
多くの税金が取れるよう、農民に与えられる土地は細分化されていました。細分化された農地は非常に狭いため、実質ジャガイモしか作れなかったようです。
さらに、「年間4ポンドの地代を農民が払えない場合、不足分を領主が払う」という仕組みもありました。税金をたくさん取るために細分化した農地でしたが、貧農を多く抱える領主は、その分負担が増大したわけです。
そのため領主たちは、自分の税負担を減らすために、飢餓によって虫の息となった農民たちに強制退去を命じ、追い出します。
こうして飢饉とともに食料供給量は減少し、可容(かよう)人口は少なくなりました。
※可容人口については、「地球の人口は160億人まで増える!?教養としての人口論」を参照
当時のアイルランドの人口は800万人を超えるほどでした(現在は約460万人)。このとき約150万人のアイルランド人が飢えで命を落とし、さらに100万人以上がアメリカ合衆国へ渡ったといいます。
食料供給量の減少により、他地域への人口移動が発生することを「人口圧」といいます。アメリカ合衆国へ渡った人たちの子孫に、ジョン・F・ケネディ、ロナルド・レーガン、ビル・クリントン、バラク・オバマといった4人の大統領の先祖がいたことは有名な話です。