人口は減っても問題、増えても問題

 人口問題を考える際に、「そもそも日本の最適な人口はどれくらいなのか」という視点から、目先の経済成長や人手不足といった問題を一旦脇に置いて、長期的に最適な方向を目指そうという考え方も一部にあります。

 食料自給率やエネルギーの自給率などから試算するアプローチもあるようですが、テクノロジーの進化や社会の様々な要素を無視して「何千万人が最適です」などと計算しても、実際にその数値を目指していくのは現実的ではありませんし、本当に最適な数値を導き出すことはそもそも不可能でしょう。

 さらに、仮に理想的な人口を算出できたとしても、中国の一人っ子政策のように子どもを産む数をコントロールすることは日本ではできません。したがって、ある程度の人口の増減は受け入れていくしかないという面があります。

 ちなみに、私の肌感覚としては、日本の人口がもう少し減っても良いのかなとは思っています。私は地方で育ったこともあり、東京の人口密度は高すぎると感じています。隣のマンションが近すぎて窓も開けられない、子どもが公園で野球やサッカーをしようとしても公園が狭すぎて道路にボールが飛び出して危ないからやってはいけないなど、住民の生活の質を向上させるには、東京はやや人口過密ではないかと思います。

 人口問題が「減っても問題、増えても問題」と言われてきたのは、この問題が予測しやすい特性を持っているからでもあります。人口動態は将来の状況を非常に高い精度で予測できるデータとされています。出生率が急増したら何年後に小学生が何百万人くらいになるか、何年後に人口構成がどうなるかなど、おおよその予測が可能です。

 そのため、病院や学校などの社会インフラがどれくらい必要になるかを予測することができます。ベビーブーマーのような世代が高齢化すると、医療費や年金問題など、社会保障制度に負担がかかることも容易に予想できます。

 予測しやすいため「ちゃんと対応していかなければ」という議論になりますが、実際には人口が増加している時に「増やすな」という対策をするのも難しく、減少している時に「増やせ」という対策をするのも容易ではありません。効果的な対策を打つことが難しいのもこの問題の特徴と言えるでしょう。

 要するに、変化が大きいことが問題なのだという見方もあります。急激に人口が増えれば、インフラなどを整備しなければなりませんし、逆に急激な少子化が起これば、世代間で支え合う仕組みなどが維持できなくなります。なるべく変化が緩やかな方が、様々な制度が持続可能だという考え方です。

 人口減少が人口増加以上に懸念される理由としては、人口が減少する社会では需要が減少して経済が縮小していくという点が大きいでしょう。人口が増えている時は需要が増えるので経済成長が起こりやすい傾向があり、一方、人口が減ってくる局面では経済成長率が低迷する要因になりかねません。

 また、人類の歴史の中で、経済データが取れる産業革命以降、テクノロジーの進化や栄養状態の向上により、戦争・災害・疫病以外の理由で自然に人口がどんどん減少していくような状況はほとんど経験していません。そのため、人口減少の中で経済がうまくいった事例も少ないことが、人口減少が懸念される理由の一つでしょう。