人口減少で日本人は大金持ちに

 ただし、確かに需要は減少していくものの、日本経済の場合、必ずしもマイナスになるとは限らないという見方もあります。

 たとえば、日本の人口は1億2000万人以上いますが、仮にみんな急に亡くなってしまって私だけが残ったという状況を想定してみます。ありえない仮定ですが、説明のための例です。日本人が私しかいなくなったらどうなるでしょうか?

 日本という国は資産も借金もありますが、資産の方が多いです。その借金と資産を全部私が相続したと仮定しましょう。トータルすると資産の方が多いので、私はいきなり大金持ちになります。

 もちろん、日本人が私だけになれば日本企業はすべて機能しなくなり、日本の不動産の価値もなくなるでしょう。ただ、海外に対して持っている資産は、海外に対する負債よりも多いので、一人残った私は外国株や外国債券などたくさん相続した資産から、莫大な利子や配当を受け取ることになるでしょう。そして、使うお金は私が生活する分だけになります。つまり、このような状況になれば、私はいきなり大金持ちになるということです。

 これは極端な例ですが、言いたいことは、国全体として資産をたくさん持っている日本では、人口が減少していくことで、一人当たりの持ち分は増えるということです。そして、人口が減少していく中で全体としての支出をそれに応じて減らしていくことができれば、社会全体としては十分にやっていけるはずなのです。

 もちろん、相続税などによってその遺産の一部が政府の税収になる部分もあり、先の極端な例のようにみんながリッチになるとは限りません。しかし、日本で人口が減少するということは、資産を潤沢に持っている国において、それをより少ない人数で分け合うことを意味しており、支出などをコントロールできれば、うまくやっていける道は残されているでしょう。

 先ほどの例で言うと、日本人が私一人になってしまったら、政府の支出を減らすのも簡単で、私が住んでいる場所以外は全部削ればいいということになります。しかし、実際にはそう簡単ではありません。

 人口が減少していけば、当然、維持する町の数も減らしていくべきでしょうが、「どの町を諦めるか」といった決断は簡単にはできません。町をなくすというのは極端ですが、インフラにしても「どこを修理して、どこを諦めるのか」という判断は非常に難しいものになるでしょう。

 人間には愛着があり、自分が育ってきた町は人口が減ってきても残ってほしいという気持ちがあります。私は子どもの頃、父親の仕事の都合でいくつかの町を転々としましたが、その中で長い時間を過ごした町はいわゆる「ニュータウン」のようなところです。

 今は高齢化も進み人口も減っていて、昔あった店なども全部閉店しており、ゴーストタウンとまではいきませんが、持続可能性に疑問を感じます。ただ、そうした場所がなくなってしまうのは寂しいものです。

 人口減少の中でうまくやっていくためには、何を諦め、何を削っていくのかという難しい判断を、今の政治が行っていくことが必要です。しかし、現在の日本の政治状況を見ると、こうした問題が簡単に解決するとは思えません。

(本稿は『日本人だけが知らない世界経済の真実』を一部抜粋、構成したものです)

モハP
元機関投資家/ファンドマネージャー
資産運用会社等で20年以上、債券・為替・株式・デリバティブ等の資産運用関連業務に携わったのち独立。世界の経済ニュースを伝える「【世界経済情報】モハPチャンネル」を2021年からYouTubeで配信し始め、金融知識がなくてもサクッとわかりやすい解説が好評を博す。2025年5月現在、登録者数は22万人超、公開動画は1000本超、総視聴数7000万回を突破。「速さ・中立性・わかりやすさ」を信条に、世界各国のマクロ経済・金融政策をリアルタイムで分析。難解な指標を噛み砕く語り口と、元機関投資家ならではの視点が個人投資家・経営者・政策関係者から高く支持される。本書が初の著書となる。
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