「世界中で話題のストイシズムに基づく新しい人生観が身につく」
「ただの投資本ではない画期的な金融哲学書」
そんな感想が全国から届いているのが『THE ALGEBRA OF WEALTH 一生「お金」を吸い寄せる 富の方程式』(スコット・ギャロウェイ著/児島修訳)だ。
どうすれば不運な目に遭わずに投資で成功し、幸福な人生を送れるのか?
今回はマネックス証券チーフ・ストラテジストで大学でも教鞭を執る広木隆氏に寄稿いただいた。(構成/ダイヤモンド社・寺田庸二)

本書で一番疑問に思う箇所
率直に言おう。本書では、話が飛躍したり、途切れたり、読みにくい箇所がある。
各章の個々のエピソードのつながりも決して良いとは言えないが、一番疑問に思うのは、章立てである。
【目次】
プロローグ:一生「お金」を吸い寄せる「富の方程式」とは?
第1章:お金とストイシズム
第2章:フォーカスの法則
第3章:お金と時間の法則
第4章:分散投資の法則
エピローグ:人生で一番大切なもの
まず、プロローグで早々に「富の方程式」が示される。
富=フォーカス+(ストイシズム×時間×分散投資)
フォーカス:仕事に集中して収入を高める
ストイシズム:無駄遣いをしない節度ある生活
時間:複利の力を活かした長期投資
分散投資:分散投資でリスクを減らす
これらを式に代入すれば、
富=仕事に集中して収入を高める+(無駄遣いをしない節度ある生活×複利の力を活かした長期的な投資×分散投資でリスクを減らす)
となる。
ここで重要なのが、はじめの「フォーカス」(=仕事に集中して収入を高める)がカッコの外に出ていることだ。
これについては以前、この連載で触れたとおり、フォーカスにはレバレッジがかからない。
残り3つのファクターは他の乗数になっている(それぞれがかかり合う)ため、仮にどれか1つが不十分でも他の要素で補うことが可能だ。
例えば、投資に回せる資金が少なくても、時間をかければ大きく育てることができる。
その反対に、遅めに投資を始めて時間の効果が十分享受できなくても、投資額が大きく、それを適切に分散されたポートフォリオで運用することによって富を築くことは可能だ。
しかし、そもそも投資に回すべき収入を稼ぐという点がおろそかになっては、何も始めることができない。
だから「フォーカス」は、他のファクターに頼むことができずに独立でいるのだ。
「フォーカス」こそ本書の一丁目一番地
著者自身も「富の基盤はどんな仕事に集中して収入を増やすかだ」と述べている。
まさに「フォーカス」こそが富を築いていくための基盤であり、ここが本書の一丁目一番地なのである。
ところが、著者は前述の「富の基盤はどんな仕事に集中して収入を増やすかだ」という言葉に続け、こう書いている。
「以降の章で貯蓄や投資の話に進む前に、まず第2章で資産形成におけるキャリアの価値について理解を深めていただきたい。」
「富の基盤はどんな仕事に集中して収入を増やすか」なのだから、「以降の章で貯蓄や投資の話に進む前に、まず資産形成におけるキャリアの価値について理解を深めていただきたい」というのは一見、何の問題もない話に聞こえる。
だが、なぜ「まず第2章で」なのか?
なぜ「第1章」ではないのか?
「フォーカス」が非常に重要で、それこそが富を築く基盤になる。
だからまずここで仕事やキャリアについての理解を深めることが重要というなら、なぜこれを第1章に持ってこないのだろう?
代わりに、第1章で語られるのは「ストイシズム」だ。
第1章が「お金とストイシズム」で、そして第2章が「フォーカスの法則」。
これは方程式の順番からいっても順序が逆だ。
そこで僕なりに、この「謎」を解いてみたい。
なぜ方程式の順番とは逆に「ストイシズム」が第1章に置かれているか?
その答えは「ストイシズム」については語ることがあまりに多いからである。
なにしろ「ストイシズム」だけで本が一冊書けるくらいである(ブリタニー・ポラット著、花塚恵訳『STOIC 人生の教科書ストイシズム』など)。
「ストイシズム」については語ることがあまりに多いというよりは、語らなければならないことがあまりに多い。
著者が本当に語りたいことは「ストイシズム」についてだろうと推察する。
資産形成や経済的自立という前に、とにもかくにも、まず「ストイシズム」なのだ。
著者自身、こう述べている。
「私が第1章のタイトルを『お金とストイシズム』としたのは、ストア派の哲学者や、その現代の識者たちの言葉が私の心に響き、仕事面でも生活面でもその教えの影響を受けてきたからだ。」
「ストイシズム」と「富の方程式」という2部構成
つまり、本書は(どこにも明示的に書かれていないが)実際は2部構成なのだ。
まず「ストイシズム」について、次に経済的自立を成し遂げる「富の方程式」についてである。
方程式の一ファクターである「ストイシズム」は、「無駄遣いをしない節度ある生活」をしようという、大きなストイシズムの中のほんのひとつの教えにすぎない。
それは「富の方程式」では、それによって投資に回すお金を貯める役割で使われているだけだ。
正確に言えば、方程式のこのファクターは“ Be Stoic(ストイックであること)”とするのが正しい。
「フォーカスすること」に対して「ストイックであること」だ。
ともに動詞で人間の行動を表す。
それに対して「ストイシズム」ははるかに大きな概念だ。
そのうち、お金に関する部分だけを語ったのが第1章「お金とストイシズム」だ。
ただ、「お金とストイシズム」となっているが、第1章を通しても、お金の話はあまり出てこない。いや、多少はふれられているが少なくとも、どのようにして富を築くかということは一切(直接的には)書かれていない。
ひたすら「ストイシズム」の話だ。
徹頭徹尾、ストイシズム。ストイックなくらいに「ストイシズム」オンリーである。
本書のテーマとは?
結局のところ、この第1章のポイントは「人格を高める」ということに尽きる。
本書のテーマは「経済的自立」である。
人格と高めることと経済的自立とはどんな関係にあるのか。
ざっくり言えば、人格を磨き、高めていくということが、「富の方程式」が成り立つ前提条件になっているということだ。
素晴らしい人格なしに経済的自立はありえない。
同時に逆もまた真なりである。
経済的自立を成し遂げるものは、その過程で人格が磨かれる。
さらに言えば、経済的自立を成し遂げた後が肝心だ。
働かなくても食べていける。
そうなったら、あなたは何をするだろう。
一生、遊んで暮らすもよし。それは個人の自由だ。
しかし、著者は(直接は言わないが)仕事を続けることを勧めているように思う。
彼自身、働き続けることを選択している。
そしてそれを誇らしげに伝えていることがその根拠である。
経済的自立を成し遂げた人が遊んで暮らしていては社会の無駄であるばかりか、その当人にとっても良くないだろう。
好きなことをすればいい。しかし、なにかしらの仕事に携わるべきだ。
生活のためでなければ、それはきっとその人の好きなことを仕事にするだろう。
なかには高貴な目的のために働いたり、社会の役に立つような仕事に従事したりする人も出てくるだろう。
ウクライナやガザの人のためにできることはないか――そう考えを巡らせることもできるかもしれない。
なぜなら、経済的自立を成し遂げた人は、もはや自分の(経済的なことに関しては)心配をする必要がない。
心に余裕が生まれる分、他者への想いを寄せるスペースができるからだ。
「富の方程式」で富を築くことは、この世界を愛で救うこと
僕が毎年、夏に楽しみにしている番組がある。
「24時間テレビ」(日本テレビ系)だ。
いろいろな意見があるが、この番組が半世紀近く続いてきたのは「愛は地球を救う」という普遍的なメッセージが多くの人の共感を呼ぶからだろう。
経済的自立もまた地球を救う。
経済的自立の究極的な目的は、愛する人とずっと一緒にいられるようになることである。
あなたにとって愛する人とは誰ですか。
そして、その隣人は誰ですか。
ずっとこの問いかけを続ければ――そう、すべての人が愛する対象である。
「富の方程式」で富を築くことは、この世界を愛で救うこと。
それが、残酷な資本主義社会に対して、勇気ある一市民が取りえる最高の選択肢であると信じて疑わない。
これまで全6回にわたり、あらゆる角度から本書を分析してきたが、結論として本書は残酷な資本主義で富が増え続ける唯一最高の教科書だと言えよう。
(本書は『THE ALGEBRA OF WEALTH 一生「お金」を吸い寄せる 富の方程式』に関する書き下ろし投稿です)
広木 隆(ひろき・たかし)
上智大学外国語学部卒。神戸大学大学院・経済学研究科博士後期課程修了。博士(経済学)。国内銀行系投資顧問、外資系運用会社、ヘッジファンドなど様々な運用機関でファンドマネージャー等を歴任。2010年より、マネックス証券株式会社 専門役員/チーフ・ストラテジスト。青山学院大学大学院・国際マネジメント研究科で9年間教鞭をとったのち、2023年4月より社会構想大学院大学教授として着任。テレビ東京「ニュースモーニングサテライト」、BSテレビ東京「日経プラス9」等のレギュラーコメンテーターを務めるなどメディアへの出演も多数。