手帳に記された謎の羅針盤
娘の宿題を見終え、寝静まったリビングで一人、僕は再びあの黒い手帳を開いた。意味不明な記号の羅列。しかし、諦めきれずに眺めているうち、ある規則性に気がついた。
4桁の数字のいくつかは、ニュースでたまに耳にする有名企業の証券コードと一致するのだ。
「まさか……」
スマートフォンの検索窓に、手帳にあった他の4桁数字を打ち込むと、次々と実在する企業名が現れた。点と点が線で繋がっていく感覚。
この手帳は、単なる落とし物ではない。何者かが記した、株式市場という大海を渡るための「海図」なのかもしれない。
暗号が示す「黄金のルール」
興奮を抑え、さらに読み解いていく。証券コードの横に書かれた「GC」や「DC」といった記号。調べてみると、株価のテクニカル分析で使われる「ゴールデンクロス」と「デッドクロス」の略語らしいことがわかった。
株価が上がる、あるいは下がる重要なサインだ。
さらに、数字の横には「PBR 1倍割れ」「ROE 8%以上」といった書き込みも。これらは企業の価値や収益性を示す投資指標だ。
つまり、この手帳の持ち主は、チャートの形(テクニカル分析)と企業の価値(ファンダメンタルズ分析)の両面から、投資すべき銘柄を厳選していたのだ。
そこには、まるで自分に言い聞かせるようなメモもあった。
「感情で売買するな。数字を信じろ」
「市場のノイズに惑わされるな。本質的な価値を見極めろ」
未来を変えるための一歩
八方塞がりの現状を打破したい。その一心で、僕はなけなしの貯金から、失っても生活に支障が出ない額を証券口座に入金した。
そして、手帳の記述の中でも、特に推奨されているように見える、世間的にはまだ無名な小型株を一つ、買ってみることにした。
翌日、仕事の合間に恐る恐る株価をチェックすると、わずかだが値上がりしていた。
たった数百円の利益。しかし、それは僕にとって、自分の力で未来を切り開くことができるかもしれない、という確かな希望の光に見えた。
この手帳は、僕の人生を変えるための羅針盤になるかもしれない。そう直感した。
※本稿は、『89歳、現役トレーダー 大富豪シゲルさんの教え』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。











