「賢い子ども」需要、米テック業界で沸騰Illustration: Daisy Korpics/WSJ, iStock, Getty (2)

【バークリー(米カリフォルニア州)】数学者のツビ・ベンソンティルセン氏は、高度な人工知能(AI)が人類を破壊するのを防ぐ方法を7年間研究し、少なくとも当面はそれを阻止することは不可能だと結論付けた。

 同氏は現在、人類を救うという任務を遂行できる、より賢い人間を生み出すための最先端技術の推進に多大な知力を注いでいる。

「私の直感では、これが最も有望な選択肢の一つだ」。この新分野を支援する非営利団体「バークリー・ゲノミクス・プロジェクト」の共同創設者であるベンソンティルセン氏はそう語る。

 これはSFではない。シリコンバレーでは、より賢い子どもを授かることへの関心が最高潮に達している。

 この地域の親たちは、新しい遺伝子検査サービス(知能指数=IQベースの胚スクリーニングなど)に最高5万ドル(約740万円)を支払っている。米実業家イーロン・マスク氏のようなテック分野の未来論者は、知的能力の高い人々に子どもを持つよう促し、専門の仲介業者は、賢い子孫を残したいテック企業の幹部と頭脳明晰(めいせき)なパートナーを引き合わせている。

 テキサス州ダラスを拠点とする高級仲介業者のジェニファー・ドネリー氏は「現在担当しているテック企業のCEO(最高経営責任者)3人は、いずれもアイビーリーグ(米東部の名門私立大学)出身者を希望している」と述べた。同氏の場合、仲介手数料は最高50万ドルだ。

 一部で言われる「遺伝子の最適化」への関心は、シリコンバレーの能力・成果主義の根深さを反映している。ハーバード大学医学大学院の統計遺伝学者、サーシャ・グーセフ氏は「彼らは『自分たちは賢く、成功を収めている。良い遺伝子を持っているから今の地位は当然だ』と考えているのだろう」と話す。「今や彼らは、自分の子どもにも同じことをさせられるツールを手にしたと考えている」

 IQ信仰の高まりは議論を呼び起こしており、生命倫理学者らは新たな遺伝子スクリーニングサービスに警鐘を鳴らす。