【FIREの現実】なぜ“億り人”は再び仕事に戻るのか?
17万部突破のベストセラーとなっている『5年で1億貯める株式投資 給料に手をつけず爆速でお金を増やす4つの投資法』の著者・kenmoさんと、新刊『最後に勝つ投資術【実践バイブル】 ゴールドマン・サックスの元トップトレーダーが明かす「株式投資のサバイバル戦略」』の著者・宇根尚秀さんによる特別対談をお送りする。新NISA(少額投資非課税制度)で、大人気の「オルカン(eMAXIS Slim全世界株式<オール・カントリー>)」や「S&P500(米国株式)」に連動する投資信託を始めた多くの個人投資家に、次の一手となる個別株投資を指南。個人投資家とファンドマネージャーによる「ここでしか語れない話」を繰り広げる。

FIRE後の社会とのつながり
kenmo 宇根さんの著書『最後に勝つ投資術』を拝読して、特に最後の章に深く共感しました。それは、FIRE(経済的自立と早期リタイア)を達成した人が、結局は再び仕事の場に戻ってくるという点です。

1982年愛知県生まれ。大阪大学大学院情報科学研究科修了後、東証一部(現・東証プライム)上場のメーカーに研究員として就職。2011年に4年間で貯めた元手300万円から株式投資を始め、追加資金の投入なしに、会社員を続けながらわずか5年で資産1億円を達成。現在は、約3億円を運用している。2018年個人投資家同士の情報交換を目的とした「湘南投資勉強会」を設立。2023年に中小企業診断士の資格を取得。15年間勤めた会社を辞め、IR支援や企業コンサルティングを行うための法人を設立。現在は株式投資のかたわら、講演活動や、数多くの企業のIR説明会を主催している。『ダイヤモンドZAi』『日経マネー』『日経ヴェリタス』『日本経済新聞』などでの記事掲載多数。初の著書『5年で1億貯める株式投資 給料に手をつけず爆速でお金を増やす4つの投資法』(ダイヤモンド社)が17万部突破のベストセラーとなり話題に。X:kenmo@湘南投資勉強会3.1万フォロワー YouTube:湘南投資勉強会オンライン チャンネル登録者数1.85万人
資産を十分に形成して、あとは遊んで暮らせば良いと考える人もいるかもしれませんが、それでも社会的なつながりや一定の責任を持ち続けたいという価値観は、多くの方に共通するものだと感じ、非常に興味深く読ませていただきました。
宇根尚秀(以下、宇根) おっしゃる通りですね。kenmoさんが個人投資家向けIR(投資家向け広報)などを主宰している「湘南投資勉強会」など、様々なコミュニティを通じた時間の使い方は、本当に素晴らしいと思います。有名なデイトレーダーの方々も、利益を上げるだけならご自身を表に出す必要がないにもかかわらず、積極的に情報を発信されています。そこにはやはり、社会とのつながりを求める、似たような想いが根底にあるのかもしれませんね。
承認欲求の先にあった「社会への貢献」
kenmo ちなみに宇根さんが今回、著書を出版されようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。差し支えなければ、そのあたりの「本音と建て前」のような部分もお伺いしてみたいです。
宇根 多少は承認欲求のようなものもあるのかもしれません(笑)。その根底にあるのは、40歳を過ぎて、今後の人生や時間の使い方を真剣に考えたことです。自分の生活レベルを大きく上げなければ、ある程度安定した生活は送れるようになったとき、「せっかくこの世に生まれてきたのだから、何か人様のお役に立ちたい」と、少し青臭いことを考えたのです。
全く新しいキャリアをゼロから始める選択肢もありましたが、これまで投資の世界で蓄積してきた経験や知識を活かすほうが、より社会に貢献できるのではないかと思いました。もちろん、投資の世界で常にお客様のお役に立てているわけではなく、反省することも多々あります。それでも、自分が知っていることを発信することで、誰かの参考になるのであれば、と。
そんなふうに考えていたタイミングで、ダイヤモンド社の編集者からお声がけいただいたのが直接のきっかけです。これは、建て前というよりは、かなり本音に近い気持ちですね。
kenmo 当初、執筆されることに迷いはありませんでしたか?
宇根 これまで培ってきたノウハウを発信する活動を増やしていきたいという思いはありました。ただ、私は投資会社を経営する立場です。私の個人的な発言が、会社のみんなに迷惑をかけてしまう可能性もゼロではありません。ですから、発信する内容の適切性について、社内でしっかりと検討し、すり合わせを行うことに時間を要しました。

1975年生まれ。インベストメントLab代表取締役。1998年東京大学工学部化学システム工学科卒業。2000年東京大学大学院工学系研究科化学システム工学専攻修士課程修了。同年ゴールドマン・サックス証券入社。エクイティ部門デリバティブトレーディング部でアジア地区のトレーディングチームを率いる。2009年同マネージングディレクター就任。2015年200兆円超を運用する世界最大級の機関投資家、ゆうちょ銀行市場部門執行役員を経て、2016年同行市場部門戦略投資部執行役員部長として投資戦略改革に参画。運用企画・投資資産配分・人材採用を含む組織体制の整備に深く関与。2018年から同行市場部門常務執行役員・経営会議メンバーとして組織全体の経営・世界中のファンドの投資選定に関与。2019年JP インベストメント最高執行責任者(COO)兼務。早稲田大学ファイナンス学科修士課程(MBA)修了。人生の折り返し地点をすぎた2020年に残りの職業人生において自分の経験と知識を活かして社会課題解決に貢献するべく起業。現在ベンチャー投資をするベンチャーキャピタルと上場株に投資をする上場株ファンドを運営している。初の著書『最後に勝つ投資術【実践バイブル】 ゴールドマン・サックスの元トップトレーダーが明かす「株式投資のサバイバル戦略」』(ダイヤモンド社)を刊行。
中小型株に光を当てたい
kenmo 私も同じくダイヤモンド社の編集者からお声がけいただいて著書を出版することになったのですが、私の動機は少し偏っていたかもしれません。「湘南投資勉強会」で個人投資家向けのIR説明会を開催していることが大きな背景にあります。
ここ1、2年の株式市場を見ていると、日経平均を構成するような大型株、特に多額のキャッシュ(現金)を溜め込み、自社株買いや増配といった株主還元を強化するだけの企業ばかりが株価を上げ、評価される傾向にありました。
一方で、これから業績を伸ばそうと努力し、積極的にIR活動を行っている中小型株が、マーケットから全く見向きもされない。むしろ、そうした成長途上の企業に投資をすると、かえって損失を被るような状況さえありました。
頑張っている中小型株がたくさんあるのに、キャッシュを放出しているだけの会社が評価され、未来の成長のために投資している会社にお金が回ってこない。この構図は、何か違うのではないかと強く感じていました。そのことを踏まえつつ自著を出すことで「湘南投資勉強会」の認知度を高め、IR説明会などを通じて、もっと中小型株に注目が集まり、そちらに資金が流れることで市場全体が盛り上がってほしい、という強い思いがあったのです。
「頑張る会社が評価される」
健全な市場を目指して
宇根 そのお話、素晴らしいですね。とても共感します。正直なところ、私たちプロの投資家も2024年後半は、その市場の流れにかなり苦戦しました。「株主還元って何だろう」と考えさせられるような、いびつな値動きも多く見られましたから。
もちろん、これまでキャッシュを溜め込み過ぎていた企業がそれを解放するという動きは、ある意味で必要なプロセスだったのかもしれません。しかし、市場の関心がそちらにあまりにも偏り過ぎてしまいました。
本来、企業の価値は事業の成長によって高められるべきで、株主還元はそのキャピタルアロケーション(資本配分)が適正化される中の一環のはずです。それが、持続性のない株主優待なども出てきて、株価対策の還元が増えてしまった。私たちも延べ年間1000回以上、様々な企業と面談しますが、経営者の考え方や哲学の違いで株価の動きが大きく変わってしまうことを何度も見ました。市場環境が大きく変わったので、自分たちの投資戦略を調整する必要にも迫られました。
頑張っている会社、評価されるべき会社が正当に評価される健全な市場を育てるために、kenmoさんのように中小型株に光を当て、経営者の思いを直接投資家に届けるような活動は非常に価値があります。そうしたプレイヤーが増えること自体が、日本市場にとって本当に良いことだと信じています。kenmoさんのような活動をされている方がいらっしゃることを素晴らしく思います。