
虚偽の処方箋を書いて薬局から高額な医薬品をだまし取ったとして警視庁麹町署は東京都渋谷区の医師、小西悠太郎容疑者(44)を詐欺容疑で逮捕し、東京地検に送致した。10月1日の毎日新聞などが報じた。だが、筆者が取材を進めたところ、さらなる疑惑も浮上。そして、戸籍上は「死亡」となっていることも判明した。信頼を裏切り続けた医師が、なぜ“死”を装うに至ったのか。関係者の証言などから、事件の真相に迫った。(東京経済東京本部長 井出豪彦)
医療制度を運営する広域連合が
被害総額は約13.8億円と公表
逮捕容疑は2021年7月~8月、高齢女性2人の名前を使って虚偽の処方箋を作り、調剤薬局から高価な抗がん剤など医薬品923点(400万円相当)をだまし取ったというもの。
小西悠太郎容疑者は事件当時、女性2人が入居する都内の介護付き老人ホームの往診医で、2人ともがんではなかったが、がん患者用の薬の処方箋を作成し、「患者が取りに行けないから自分が行く」と言って自ら薬局に出向いて薬を受け取り、医薬品卸会社に転売していた。薬代は保険が適用されるため患者負担は1割で済むから、仮に定価より多少ディスカウントして転売しても利幅は厚い。
小西医師は別の患者でも同様の不正を繰り返し、この期間だけで1億円相当の薬を手に入れ、換金していたとみられる。医療制度を運営する「東京都後期高齢者医療広域連合」(以下、広域連合)に複数の患者から「身に覚えのない薬の処方記録が載った医療費通知を受け取った」という連絡が入り発覚した。
逮捕にあわせて広域連合はプレスリリースを出し、広域連合の被害は総額13億8652万円に達しており、今年9月に麹町署に刑事告訴していたことを発表した。すでに東京地裁での民事訴訟でも広域連合の訴え(13億8000万円余りの請求)を認める判決が出ており、広域連合は債権回収を進めつつ、同様の事件が起きないよう不正請求を検知するシステムの導入などを検討するという。