今や性病の知識は一般にも周知され、ネットなどでも簡単に調べることができるようになっている。ところが近年、性病でない患者に「性病」と嘘の診断を下し、薬代などを騙し取る“性病詐欺”が増えているという。患者の羞恥心につけ込んだこの詐欺の背景には、医者の性善説に立脚する制度上の問題もあるという。(フリーライター 光浦晋三)
「妻には絶対に言えない」
性病詐欺に苦しむ男性たち
今年1月、「性感染症」にかかっていると嘘の診断をし、患者から治療薬の代金をだまし取ったとして、新宿セントラルクリニック院長が逮捕されるという事件が起きた。
こうした“性病詐欺”はなかなか表沙汰にならないため、ほとんど事件化することはないのだが、水面下ではかなりの被害が出ていると推測される。
実はこの逮捕に先立つこと3年前、新宿セントラルクリニックに対して本人訴訟で損害賠償の民事訴訟を起こし、勝訴した男性がいる。東京地裁は「院長が故意に虚偽の診断をした」として、25万円の支払いを命じた。
この男性は都内在住の60代会社役員。2012年の夏、陰部に湿疹が出来たため、職場から近い新宿セントラルクリニックを受診した。この際、院長は陰部を診察もせずにすぐに採血。1週間後にクラミジアと診断されたという。
その時に示されたのは病院のパソコンからプリントアウトされたカルテのようなもの。検査機関のデータは示されなかったが、院長が診断したのだからと、男性は何の疑問もなくその結果を受け止めた。長らくセックスはしていないのだが、診断が出たのなら、サウナや温泉を利用した際にたまたま菌が移ったのだろうと思ったという。
その後3ヵ月通院し、投薬治療した。クリニックは院内処方、つまりクリニック自体で薬を出している。投薬は基本的に5種類で、多い時は6種類。1ヵ月の薬代は約6万円だった(自己負担額は約1万8000円)。
男性にしてみれば、たとえサウナでもらったとしても、妻に「クラミジアになった」とは絶対に言えなかったという。浮気や風俗遊びを疑われるに決まっているからだ。そのため、「まだ治ってないね」という医者の言葉を鵜呑みにして、高額な薬を長期間、飲み続けるしかなかった。