「そりゃ売れるわけだ」…「意外なニーズ」をつかんだ慧眼とは?
101歳、現役の化粧品販売員として活躍している堀野智子(トモコ)さん。累計売上高は約1億3000万円で、「最高齢のビューティーアドバイザー」としてギネス世界記録に認定されたキャリア61年のトモコさんが、年をとるほど働くのが楽しくなる50の知恵を初公開した話題の書『101歳、現役の化粧品販売員 トモコさんの一生楽しく働く教え』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものをお送りする。佐藤優氏(作家・元外務省主任分析官)が「堀野氏の技法は、ヒュミント(人間による情報収集活動)にも応用できる」と絶賛(日刊ゲンダイ・週末オススメ本ミシュラン)する世界一の先輩による“人生訓”は、アナタの疲れた心も元気にしてくれる!

【商売の原理原則】「待ってました!」…お客さんを熱狂させた「隠れた不便」の見つけ方Photo: Adobe Stock

活気あふれる高度経済成長のまっただ中へ

昭和31年の「経済白書」で、有名な「もはや戦後ではない」と宣言されるなど、昭和30年代の日本は劇的な復興を遂げて、国全体が豊かになり始めていました。

私がポーラ化粧品のセールスを始めたのは、昭和37年。当時、日本は高度経済成長のまっただ中でした。しかも、そのころの日本は若い人の数が多く、働く場所も働く人も消費する人も多かったので、お給料もどんどん上がっていきました。

「三種の神器」が暮らしを変えた

「白物家電」と呼ばれる「炊飯器」「洗濯機」「冷蔵庫」」が売り出されたり、カラーテレビの放送が始まったりしたのもこのころです。

便利なものが登場して一家の主婦の家事の負担は大幅に軽くなりつつある時代でした。

「生きる」から「彩る」へ、心の余裕

食うや食わずの生活をしていたころは、食べることが第一でしたし、住むところの確保も重要な問題でした。美容もオシャレも、今日明日の生活の見通しが立たない中では、二の次三の次になるのは当然でしょう。

ところが生活にゆとりが生まれるにつれ、女性たちの心に「オシャレをしたい」「もっときれいになりたい」という思いが再燃してきたのです。

時代が求めた「美しさ」という仕事

これは、時代に恵まれたとしか言いようがありませんが、うまく商売をするためには、「場所」だけではなく、「時勢」に乗ることも大切なんだと思いますね。

そんな時代に化粧品のセールスという仕事は、ぴったり合っていたのだと思います。

「待ってました!」奥様たちの隠れたニーズ

私が思った通り、県営住宅の奥様たちは、化粧品に強い興味を示してくれました。

家にいながら化粧品が買えるなんて便利だわ」とか「ちょうど欲しいと思っていたところだったの」なんて、初日からありがたい言葉をたくさんかけてもらいました。

【解説】「時代の風」を読み、ニーズの変化を捉える

このエピソードは、単なる一昔前の成功物語ではなく、現代のビジネスパーソンが学ぶべき「商売の原理原則」に満ちています。時代背景は変われど、ビジネスの本質は変わりません。

著者のトモコさんが成功した最大の要因は、「高度経済成長」という社会全体の大きな変化、いわば「時代の風」を正確に捉えた点にあります。「食うや食わず」の時代が終わり、生活にゆとりが生まれ始めたことで、人々の関心は「生きること(生存)」から「生活を彩ること(文化的・自己実現的欲求)」へとシフトしました。

現代においても、技術革新(AIやDX)、人口動態の変化、サステナビリティへの関心の高まりなど、社会は常に動いています。このマクロな変化が、人々の「欲しいもの」「困っていること」をどう変えているのか。その兆候を敏感に察知し、次に来るニーズを予測することが、新しい市場を切り開く鍵となります。

顧客の「隠れた不便」こそがビジネスチャンス

注目すべきは、「三種の神器」によって生まれた「主婦の時間の余裕」という、新しいリソース(と、それに伴う新たな欲求)に着目した点です。

「家にいながら化粧品が買える」という訪問販売のスタイルは、「オシャレをしたいけれど、まだ自由に外出して買うのはハードルが高い」あるいは「家事や育児の合間に買いに行くのが難しい」といった、奥様たちの言葉にならない『隠れた不便(ニーズ)』に対する完璧なソリューションでした。

「待ってました!」という反応こそ、その証左です。顧客自身も明確には意識していない「あったら嬉しい」「これが不便だった」というポイントを見つけ出し、解決策を提示すること。これこそが、高い付加価値を生み出す源泉です。

成功をつかむ「時勢」と「場所」の戦略

トモコさんは「時勢に乗ることも大切」と語っています。まさに、人々の美への欲求が再燃し始めた「タイミング(時勢)」で、県営住宅というターゲットが密集する「場所(チャネル)」を選びました。

どれだけ優れた商品やサービスであっても、市場が求めていない時期に投入したり、顧客に届かない場所で展開したりしては、成功は望めません。

いつ売るか」「どこで売るか」というマーケティングの基本戦略が、時代を超えて重要であることを、この体験談は教えてくれています。

※本稿は、『101歳、現役の化粧品販売員 トモコさんの一生楽しく働く教え』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。